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第97話 分かりあえた夜

 上城は陽向をベッドまで運ぶと、そっと下ろして座らせた。  上体を起こし、窓辺へと近づいてカーテンをしめようとする。しかし途中で思いなおしたようにその手をとめて、わずかの間、外の明かりを眺めた。  上城の横顔に、赤や青の光が瞬く。淡くおぼろな明かりが、シャープな顎のラインに映えていた。  不意に、陽向はこの部屋に、ナツキという人は来たのだろうかと考えた。  畠山は、上城とナツキという人が関係していたみたいに言っていた。そうして、アキラはしばらくの間、ここに彼を匿っていたと陽向に話した。  もしかしたら、本当に上城とその人とはなにかがあったのかもしれない。けれどそれを本人に尋ねるのはためらわれた。過去の相手とのことを、今更とやかく問い質そうとするなんて男らしくない行為だ。  上城はカーテンをあけたままにして、ベッドに戻ってきた。陽向の横に座ると、膝に組んだ手をおいて陽向を首を傾げるようにして見つめてくる。瞳には愛情があふれていた。  陽向はなにか言おうと、口をあけた。けれど言葉はすぐには出てこない。  喋ろうと思って、しかし出てきたのは思っていたのとは違う台詞だった。 「……ナツキさんって人も、この部屋に来たんですか」  心の中に渦巻いていた疑問が、勝手に口をついて出てきてしまう。しまった、と思ったけれど遅かった。  陽向の問いかけに上城が眉をひそめる。整った男らしい眉がきゅっとよせられるのを薄暗闇の中に認めて、陽向は言ってしまったことを後悔した。 「畠山になんか言われたんだな」  なにを聞いてきたのか、わかっているという顔つきだった。  陽向はもちろん、畠山の言ったことを信用していなかったし、万が一本当のことだったとしても、それでどうこう言うつもりはなかった。  ただ胸の中にもやもやとしたものを抱えたまま、この先の時間をすごしたくなかった。だから、本当のことを知りたいだけだった。 「確かに、ナツキはここで一か月ほど暮らしていた。他に行く場所がなかったし、畠山に見つかると色々と面倒だから、外にもださないようにしてた」  陽向は黙って頷いた。 「けれど、畠山が邪推するようなことはなにもない。あいつは嫉妬に駆られて出まかせを言ってるだけだ」  上城の真摯な眼差しに嘘はなかった。陽向は訊いてしまった自分が恥ずかしくなって、耳を赤くして俯いた。

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