98 / 115
第98話
それを見た上城が、ふっと優しく笑ったのがわかった。
まだアイスパックを握りしめていた陽向から、パックを受け取るとベッドの下の床におく。
「ナツキは男だったけど、外見はほとんど女だった。ひ弱で自分ひとりでは逃げきれなかったから、可哀想に思って助けただけだよ。俺は、弱い奴は趣味じゃない。根性のある、強い奴が好きなんだから。おまえみたいにさ」
言われて、陽向は顔をあげた。自分だって根性があって強い男のわけじゃないのに。
「……俺、上城さんはわかってないかもしれないですけど、ホントは小心で臆病者ですよ」
今まで見てきたならわかるだろう。陽向が流されやすくて人の言いなりになりやすい性格だってことは。
「桐島に当て馬頼まれたときだって、優柔不断なことばっかりしてたじゃないですか」
自嘲的な言い方だったかもしれない。あまり買いかぶられてしまうのも困るので、謙遜しようとしたらかえって素直ではない物言いになってしまった。
「そうじゃないだろ」
けれど上城は、それにも笑っただけだった。
「臆病なんじゃない。優しいんだよ。だから、彼女の頼みも断れなかったんだろ」
「え……」
「本当に強い奴じゃないと、他人には優しくなれない。そういうもんだからさ」
――優しくて、強い。
自分の性格をそんな風に評価してもらえるなんて思ってもみなかったから、陽向は目を見ひらいた。
戸惑っていると、上城は全部わかってると言いたげに口元を綻ばせる。
「俺は最初に会ったときから、わかってた」
上半身を傾けて、もう一度陽向の唇に触れてきた。
ゆっくりと押しつけるようにして、それからかるく食んでくる。陽向の反応を待ちながら、やわらかく唇の先だけを刺激した。
甘くて、ちょっとだけくすぐったい感触に、胸の奥からじわりとした感覚がやってくる。
それは上城のことを考えたり、触れられたりしたときだけに感じる、切なくて痛い思いだった。
ともだちにシェアしよう!

