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第103話 *

「陽向、……な」  指が増やされる感触がくる。 「……ぇ」  名前を呼ばれて、飛び始めた意識のまま答えた。 「挿れたい」 「……」 「おまえの中に、俺のモノ、挿れたい」  上城はそう告げると、欲求の激しさをこらえるように、グッと歯を喰いしばった。  陽向はぼんやりとした目で相手を見あげた。  自分は服をほとんど脱がされてしまった状態だけれど、上城はまだ自分の服をひとつも乱していない。ネクタイもきちんと結ばれたままだ。  きっと、陽向がここで拒否したら、上城はこのまえしたときと同じように、陽向だけいい気持ちにさせて自分は抑えてすますつもりなんだろう。  相手のスラックスに目をやれば、足のつけ根は服地が重たげに歪んでいる。張りつめたそれを陽向はまだ一度も見たことがなかった。  自分は三度もされてしまったのに、上城は理性で欲望を抑え込んで、陽向に無理なことを強いようとしてこない。  その姿を見ていたら、どうにも苦しくなってしまった。胸が圧迫されるように愛おしさが湧いてくる。  この人は、強いだけじゃなくて、本当はすごく心の優しい人なんだ。相手のことを考えて、攻撃するのは最後の最後まで我慢しておく。他人を傷つけるのはきっと、本意ではないのだ。  陽向は自分から両手をのばして、上城を呼びよせるように手を広げた。  目元を少し朱に染めた上城が、それを見て、困惑したように笑う。  陽向の顔の横に右手をついて、顔を近づけるとゆっくりと唇を塞いできた。 「どうして欲しい?」  吐息まじりの、掠れた低音で問いかけられる。 「なあ、どうして欲しい」  左手の指をグッと身体の中で動かす。上側を押すようにされて、ピリと尖った刺激がきた。 「……あ」 「陽向、おまえの好きなようにしてやる」  唇はあわさったままで会話する。途切れ途切れの息は、お互い灼けるように熱かった。  好きなように、と言われて、けれど陽向もどうしていいのかわからなかった。知識はほんの少ししかない。  だったら相手に任せるしかないのだけれど、そうしたら自分は『オンナ』になるのだろうかと、ぼんやりと考えてしまった。  けれども上城の、欲望を抑制しようとする官能的な顔を見ていたら、それでもいいかと思えてくる。  この人を、解放させてあげたい。自分の身体で、つながってひとつになって愛情を感じてもらいたい。

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