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第108話 新しい日のはじまり

 翌朝、目覚めたのはベッドの中だった。  東側の窓から、アーケード越しの淡い朝日がさしこんできている。陽向はシングルベッドの真ん中にひとりで寝ていた。 「……あれ」  周囲を見渡すが、誰もいなかった。部屋には自分だけだ。  首の上まできちんとかけられていた上掛けを少しずらして、気配をうかがう。陽向は寝相がいい方ではないので、きっと上城が風邪を引かないようにかけてくれたのだろう。上掛けの下は裸のままだった。  隣の部屋からわずかに音がもれ聞こえてくる。昨夜ともに眠った相手は、どうやら向こうにいるらしい。陽向はぎしぎし言う身体をシーツの上にゆっくりと起こした。  あれからまた色々あって、お互い眠りに落ちたのは何時だったろうか。思い起こせば、衝撃的な一夜だった。  けれど夜があけてみれば、そのことに馴染んでいる自分もいる。そっちの方が驚きかもしれない。  ぼーっと陽の当たる部屋の中を眺めていたら、あけ放したドアから上城が寝室に入ってきた。手にはマグカップがふたつ。 「や」  上城は少し照れたように、口元を綻ばせた。かるい挨拶は、お互いの気まずさを追い払うためらしい。陽向も寝癖のついた頭をぺこりとさげた。 「……はようございます」  上城はスウェットを下にはいているだけだった。ベッドに腰かけると、陽向にカップのひとつを手渡してくる。熱いコーヒーが入っていた。湯気に目を瞬かせながら一口飲むと、いい香りがした。 「……」  なにを話していいものやら、全くわからなくて黙っておいしいコーヒーを啜ってしたら、上城がぽつりと呟いた。 「もうここには来ない方がいいかもしれないな」 「えっ」  飲みこもうとしたコーヒーにむせそうになる。 「な、なんでですか」  いきなり予想もしていなかったことを告げられ、慌てて問い返した。

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