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第112話
「お宮通りの今の雰囲気を崩さないようにしながら、ここのよさを保とうって、熱心に話し込んでるみたいです。
常連さん達には居心地の良さを残しつつ、新規客も訪れやすいようにするのにはどうしたらいいのかって、日坂さんらと連日、苦労してますよ。
とりあえず、アーケードの入り口を綺麗にしようって案が出てるらしくて」
「なるほど」
確かに入り口は商店街の顔でもある。来る人に馴染みやすい作りにする必要はあるのかも、と同意しながら頷いた。
「昭和レトロ通りとかって、新しい名前もつけようかって。……あ、そうだ」
言いながら、カウンターの下に手を入れる。この近辺に無料で配布されているタウンマガジンを一冊取りだした。
「これこれ、見てくださいよ」
陽向のまえに広げた見せたのは、冊子の巻頭カラーページで、『隠れた名店』と銘打った特集がなされている。いくつかのバーが写真入りで掲載されていたが、一番目立つ真ん中にザイオンが載っていた。
そこに、カウンターの中でカクテルを注ぐ上城が大きく写っている。いつものバーテンダー姿で、少し目を伏せ気味にしてグラスとシェーカーを手にしていた。印刷は荒かったがそれでも男前っぷりが映えたいい写真だった。
「……すごいですね」
「そうなんですよ。表通りの名店を抑えての、堂々の一番大きな写真です」
昂奮した様子で、自分のことのように喜びながらアキラが話してくる。
「すごく格好よく写ってる。これなら、お店にくるお客さんも増えるんじゃないですか」
アキラはうんうんと頷きながら、後ろのテーブル席にそっと視線を流した。陽向も店に入ってきたときに気づいていたが、華やかな女性の三人組だった。
「ああいったお客さんが増えてるんですよね」
陽向は振り返らずに、へええと返した。内心、ちょっと複雑な感情が入り乱れたけれど、平静を保って笑顔を向ける。それに、アキラが意味深に微笑んできた。
「だから、小池さんも心配ですよね」
「へ?」
いきなり心の中を読まれて、不意打ちを喰らい、間抜けな声を出してしまう。
「な、なんのことですか」
口元が微妙に痙攣する。強張った作り笑顔に、アキラはわかっていますよ、とばかりに大仰に頷いた。
「大丈夫です。小池さんと上城さんのこと、知ってるの俺だけですから。誰にも言いませんよ」
「……へ、ええ?」
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