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2. 母と弟(桃李SIDE)
俺の家族はおかしい。
ガチャッ。
「桃李ちゃん、おかえりなさぁ~い」
「…………………………」
パタン。
「ちょっ、桃李ちゃん?」
高校からの下校途中、突然見ず知らずの奴等に絡まれムシャクシャした俺は、そいつ等を完膚無きまでに伸して帰宅した。
疲労と眠気に襲われながら考えるのは唯一つ。
早く休みたい。
なのに玄関開けて直ぐアレが居た。
とっくに40過ぎている筈なのに、可愛らしい容姿とそれに見合った髪型と服装。
口調も子供っぽくて、誰がどう見てもオバサンには見えない。
学生と言い張ってもバレない位見た目の若い化け物。
肌は10代のまま、皺やシミや白髪なんて有りやしない。
妹と間違われた事さえある。
一切老化現象を寄せ付けない、まるで地球外生命体の様な摩訶不思議な人間。
激しく認めたくないが、俺の母親だったりする。
俺は母が苦手だ。
いや、嫌いではないんだが、どうしても好きになれない。
理由は……。
はぁぁぁぁ...言いたくない。
ポフンッ、ふわふわのベットに倒れ込む。
途端に広がる甘ったるい香り。
チラリ目線を左右に動かし、溜め息が出た。
視界に入るは、淡いピンクが基調な部屋。
嗚呼、何故だ。
何故俺がこんな部屋に居るんだ。
レースやフリルや花柄、ぬいぐるみや天蓋付きベット、うさぎのぬいぐるみの様なスリッパ。
家具も全て女の子が喜びそうな物で統一されている。
因みに母考案。
ピンクの机と椅子。
机に置いてあるリラック〇のマスコットが付いたシャーペンとコリラッ〇マの形の消しゴム。
宿題をしながら無意識に食べる苺の飴。
美味し~♪
って、俺は乙男かよ。
そう、母が苦手な理由。
それは少女趣味を俺にまで押し付けてくるからだ。
顔を合わせ気を抜いたら最後。
女装させられる。
だから俺は必要最低限でしか母に近付けない。
玄関から帰宅して待ち構えているのは、必ず可愛らしい服や小物が手に入った時。
それも、俺へのお土産として買ってくる。
今日は玄関開けて直ぐ居た為、慌てて外に出てベランダから自室に入った。
捕まったら何されるか分かっている。
確実に着せ替え人形にされるだろう。
勿論部屋に鍵を掛けるのも決まりだ。
以前恐ろしい事があったからだ。
「お帰り桃李」
「……………………………………………………」
「今日は一段と可愛いね、桃李」
いえ、いつもと何ら変わりありませんが。
「なんか清々しい表情」
あ~、ストレス発散してきたからか。
「肌もスベスベ」
するり、触られる頬。
ちょっ、おい。
「可愛い。ねぇ、食べて良い?」
「…………………………」
ふぅ。
何故だ、何故居るんだよ、櫻路。俺鍵閉めたぞ?
誰も居ない筈の部屋に居たのは1つ下の長身で爽やか王子な弟。
名前も漢字は違うが櫻路だ。
以前鍵を掛けずに寝ていたら、目覚めてビックリ、いや、ガッカリ。女装させられていた。
鏡に映る美女に、化粧ってスゲェわぁ、感心するが俺は男だ。
喜べるか馬鹿野郎。
ムカついた俺は、その日以来鍵を忘れずする様に決意した。
なのに何故だ。
何故毎日櫻路は俺の部屋に入れる?
勝手に合鍵でも作ったのか?
解せぬ。
明日学校終わったら速攻鍵を変えるかって、同じ家だからバレるか。
お金も掛かるしなぁ。
仕方ない。せめて一人で部屋に居る時は、扉の前に何か重たい物でも置いて阻止しよう。
それだけでも幾分マシだ。
多分きっと、恐らく。
「可愛い桃李」
うん
「好きだよ」
あのさぁ
「抱かせて?」
なぁ
「ね?桃李」
黙ろうか、馬鹿櫻路。
兄に向かって可愛いは無いだろ、可愛いは。
せめて格好良いにしろ。
って、櫻路に言われたら嫌味にしか聞こえないか。
この世界には男女の性だけでなく、第2の性、α・β・Ωが存在する。
第2の性は中2の身体検査の時に血液検査で教えられ、殆どの人はその前後に自分のもう1つの性別を自覚する。
Ωには周囲を惑わすフェロモンがあり、男女関係なく妊娠する事が出来る。
が、それも第2の性を自覚してからだ。
それ迄は幾ら沢山そういった行為をしていても妊娠はしない。
αは遺伝子的に優秀らしく、様々な能力に長けている。
かなり羨ましい存在だ。
そして、Ωと番になる事が出来る。
この2つの性別は極端に人数が少なく、人口の殆どはβで構築されている。
因みにβは第2の性と言われているが別に何も特徴はなく、第1の性と殆ど一緒だ。
で、俺はその時にΩ、櫻路はαと診断された。
診断と同時に渡されたのは2種類の薬。
発情抑制剤と避妊薬。
両方共発情期になったら飲まなければならないらしい。
発情期のΩは妊娠率が非常に高い。
フェロモンも大量に放出される為様々な危険が伴う。
それを抑えるのが薬だ。
服用する事によりフェロモンを抑え、通常の生活を送れる状態に戻す。
避妊薬はいつ何があるか分からない為保険の為に併用するらしい。
因みにαと番になったらこの症状は変わる。
それ迄無差別だったフェロモンが番同士にしか効かなくなる。
Ωは番になったαしか見えなくなるし、番のα以外とは行為が出来なくなる。
しようとすると様々な苦痛を伴うらしい。
そしてもう1つ。
薬だけでなく、密封された紙袋も渡された。
必ず家以外で開けない様にと念押しされて。
で、自室に入って開けたらビックリ。
卑猥な玩具が沢山入ってました。
それもきちんと分かりやすく取扱説明のプリント付きで。
どうやらΩは他の性別に比べると発情しやすいらしい。
発散せず生活すると、発情期関係なく無意識にフェロモンを大量に放出する事がある。
そんな時は抑制剤で対処する事も出来るが、余り飲むと副作用が出たり、効きが悪くなる事もある。
なのでソレを阻止する為自分で処理しなさいって意味で渡されたらしいのだが、いや、無理だろコレ。
恥ずかし過ぎるわ、マジで。
取り敢えず家族に自分がΩだった事を告げると、何故か櫻路が俺の性欲処理係に任命された。
って、なんで弟に頼まなければならないんだよ。
嫌に決まってんだろうが。
と思ったのだが、有り余る性欲を自己処理等恥ずかしいし怖いしで出来ず、結局俺は櫻路に身を任せる事になった。
元々ブラコンだった櫻路。
性欲処理係になってからは拍車が掛かったらしく、毎日ベタベタくっ付いてくる様になった。
正直ウザイが、コイツに頼らないと周囲にフェロモン撒き散らして大変な事になるらしいので、毎日俺は弟のセクハラに我慢している。
Ωと発覚してからスグ防音に改装された俺と櫻路の部屋。
因みに両親の部屋も防音だ。
コレで幾ら声を出しても大丈夫って笑顔で言われたが、ほんっと恥ずかしいので止めて下さい。
俺の羞恥心が死にます。
Ω程ではないが、αもβに比べると性欲が強い。
特に櫻路は異常な位強いらしく、毎日俺に手を出す。
行為前に病院から貰った避妊薬を飲み、ゴムを装着すればほぼ妊娠する事もないのだが、やはり流石に兄弟で最後迄する勇気はない。
櫻路はしたくて堪らないらしく毎日迫ってくるが、俺は毎回挿入ギリギリの所迄しかさせない。
櫻路には悪いが、どうしようもない。
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