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第4話
「離してください」
「やめろ。そんなことしても...王子は手に入らないだろう。今までにも何人か王子に振られてそいつをどうこうしようとするやつが保健室に来てた。萌里もそうなのか」
先生が僕の顎を掴み、自分の目と目を合わさせようとする。
先生の目に捕えられ、体の力が抜けた。
「他の奴と同類になっていいのか萌里」
名前で呼ばないでください。
顎が取れちゃいそうだ。
言いたいことはたくさんあったけれど、僕は何も言えなかった。
「...よし。いいこ。萌里とりあえずそいつの上から降りな」
指示されたように奴の首から手を離し、ベッドから降りる。
「...七瀬も王子ファンだったんだ」
奴はやはり先生の言っていたように何度も同じことがあって慣れているのか、何事もなかったかのようにワイシャツを直している。
「ファンじゃない。......恋、してたんだ」
奴は何も言わない。
不安になって顔をあげた。
「...そっか」
首をしめてきた相手にそんな優しく笑う馬鹿がいるのか。
きっとこいつは平凡な男だけど、優しいんだな。きっとどこかが他の奴と違くて、王子はそこが好きだったんだ。
「ごめん...」
「ううん。もう慣れたしね。自分でもなんで俺なんかと王子が付き合ってるのかもわかんないし」
王子と付き合ってるという事実を口に出したことを照れているようで真っ黒でツンツンした自身の髪を撫で続けている。
「じゃあ俺...体育いくから」
多分体育の授業を、出ないつもりで寝ていたのだろうに、僕が保健室になんか来たばっかりに奴は気まずさから授業に出ることを選んだようだ。
「これ飲みな」
少しして先生が湯気ののぼるマグカップを持ち、僕の横に座った。
「いらないです」
「飲むと落ち着くぞ」
「もう充分落ち着いてます」
「素直じゃねぇなぁ」
僕に渡した方ではないカップに口をつけ紅茶を啜る先生。
「ほんとに素直じゃない」
「なんなんですか」
「泣きたいなら泣けばいい。辛いなら辛いっていえばいい」
その時僕は何も返さなかった。
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