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28.Sweetest Candy
十二月半ば、ボーナス時期を狙っての、二号店の開店だ。キャストの数はまだ少ないが、本店からも助っ人が来てくれている。
だが、キャストがまだ頼りない。時給制で、部屋で自由に過ごしてもらい、オプション代は指名があったキャストの給料に加算される。そんなシステムだが、“自由に過ごす”を持て余してしまうようだ。
「店長、オレ、どうしていいかわからないんです。毎回、ワンパターンになりがちで」
まだ二十歳でこの業界が初めてだという新人の藍 が、真剣な表情でアキに相談しに来た。見た目は茶髪で少し肌が浅黒く遊び人風なのだが、高校時代は校則が厳しく真面目だったと言う。大学に入って自由を手にしてから髪を染めたそうだが、この風貌を利用できないものかとアキは考えた。
「ねえ、アキ店長がお手本を見せたらどうかしら? 二人で共演してさ」
そんな花森の提案に、アキは藍とともに部屋に入ることになった。
バスローブ姿の二人が部屋にいる。客のうち何人かは、その一人が本店のナンバーワンのアキだと知り、驚いている。
アキが長方形の部屋の中央で、横座りになっている。アキの背中から、藍が抱きしめる。アキが思いついたシナリオは、“遊び慣れた藍が奥手なアキに快楽を教える”。
ベテランのアキが手解きをするのではなく、見た目に遊び人のような藍がアキを淫らに変える方が面白くなるのではないかと考えた。その方が、アキの舞台を見慣れた客にとっては新鮮味があるだろう。いつも客を誘うような小悪魔で、サディスティックな面も見せるアキが、純情でウブな青年を演じる。
ゲイビデオを見たことがあると藍は教えてくれた。タチ側の男優のように振る舞ってもらえないかと頼み、おおまかな流れはアキが考えた。
藍がバスローブの合わせから手を入れ、アキの乳首に触れる。
「あっ…、そんな所…やだ」
アキの震える手が、藍の手を押さえる。それでも藍のイタズラな手は止まらない。バスローブの上からでも、胸を激しくまさぐる様子がわかる。
「あんっ…」
後ろを振り向き首を反らせると、藍が唇を塞いだ。アキの肩からバスローブが滑り落ちる。どんなふうに乳首を触っていたのか、これではっきり見えるが、いつもの回転する舞台とは違う。藍の背中側にいる客には見えない。アキはくるりと向きを変えて、藍と向かい合わせになる。体が重ならないようにずらし、藍が乳首を触る様子がよく見えるようにした。
乳首の触り方に反して、藍のディープキスは優しい。アキが徐々に緊張を解き、身を委ねる。だが、藍の手がアキの股間に触れたとき、アキは“いやいや”と首を振る。
恥ずかしがるアキを、藍が押し倒した。アキの手を取り、藍は自分の股間に導く。
「ほら、オレもうこんなになってるんだよ…だからオレにも触らせて?」
股間に手を押しつけられ、アキは恥ずかしそうに顔を背ける。鏡の向こうの客にとっては、めったに見ることのない純情なアキの表情だ。
バスローブのヒモがほどかれ、アキは体をよじって隠そうとする。藍の視線から逃れるための恥ずかしそうな仕草は、実は鏡の向こうの客に股間をよく見せるためだ。
アキの耳や首筋に舌を這わせ、藍はアキの体をまさぐる。アキの体すべてを、その唇と手のひらで味わう。
「ああっ…や…だ…」
舌は乳首まで下りてきた。そこは、言葉に反して舌を待ち構えていたように、ぷくりと小さく実っている。
「やっ、あ…そこは…感じるからやだ…」
「ふーん…感じるんだ」
藍の舌の動きが激しくなる。美味な飴玉をもらった子供は、いつまでもそれをしゃぶっている。
やがて欲張りな子供は、もっと美味なものを求める。
「ほら、もう硬くなって勃ってるよ。乳首だけでこんなになるんだ。エッチな体だね」
恥ずかしい言葉を聞くごとに、アキは羞恥心という衣をどんどん脱ぎ捨てていく。藍の手で扱き上げられているころには、恥ずかしがらずに唇をむさぼっていた。甘さを増した飴玉は、もはや大人が味わうものだ。
藍が体を反転させる。二人でシックスナインの形になって愛し合う。鏡の向こうの個室より少し低めになっている中央の部屋は、全角度からこの秘め事が丸見えだ。
「あんっ、もう…出ちゃう…」
アキが射精した。白い跡が藍の首筋や頬に飛ぶ。そんなエロティックな姿のまま、藍は仰向けに寝た。今度はアキが藍に覆いかぶさる。尻を突き出しているせいで、アキのピンクに色づく秘門が見える。アキのフェラチオが見づらい角度の個室へのサービスだ。
もはや羞恥心はすべて脱ぎ捨てて裸の淫獣と化したアキは、藍の感じる部分を集中的に攻める。くびれを早い舌の動きでくすぐるように舐めると、口内で茎がビクンと暴れた。
「あっ…は…もう、イク…!」
アキが顔を離した。顔全体に精液を浴びる。浴びた後は、東郷にしたのと同じように、きれいに先端を舐める。
鏡越しに伝わるのは、秘め事の様子と淫らな声。しかし、その二人の愛し合う様は、伝わるはずのない濃密な匂いと互いの熱までもが、鏡の向こうまで流れ出すような錯覚に陥る。
今宵の万華鏡は、回らずとも甘美な夢を展開させた。
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