32 / 46

32.Temptation

 早速翌日、カズハが来てくれた。バイクで通勤しているため、十分足らずで本店と二号店を行き来できる。カズハは午後五時から本店、午後七時から二号店に出演することになった。  事務所に顔を出したカズハに、アキが頭を下げる。 「カズハさん、ありがとうございます。無理のないよう、こちらでも時間を調整しますから」 「いーよいーよ、アキちゃんのためだしね。それにここは本店より時間が自由だから、ほんの隙間時間でも出られるし」  時間が決まったショーではなく、各キャストが自由に出入りし、その時給プラスオプション代という給与システムだ。 「ただし、条件ね」  カズハがデスクにいるアキに近づく。アキの手に自分の手を重ね、少しかがんで顔を近づけた。 「アキちゃんといっしょに出たい」  びくりとアキの体が反応する。ムスク系フレグランスが、鼻腔をくすぐる。 「ダメかな?」  指で手の甲をたどり、袖口に入ってきた。その動きが、妙にエロティックだ。 「…い…一度だけ、でいいですか」  カズハが一瞬、言葉につまる。冗談のつもりなのに、真面目なアキは真に受けてしまった。  しかしカズハは驚きを隠して、アキの耳元に顔を近づけた。唇で耳たぶをくすぐり、アキにささやく。 「うん、いいよ。でも、アキちゃんがいっしょに出たければ、毎回でもいいからね」  シャツのカフスボタンを、片手で器用に開ける。手首の突き出した骨をクルクルといじる。手首なのにその仕草は、全裸にされて下半身をまさぐっているように淫靡だ。 「アキちゃんが俺に溺れるまで…何度でも共演するから」  Yシャツ一枚で、床にねそべるアキ。触り心地がいいカーペット。長方形の室内には枕と電話だけしかない。アキはとろけそうな目で、いやに落ち着きなく、膝を立てたり、寝返りを打ったり、とソワソワしている。足が動くたびにシャツの裾から焦らされるように尻や陰部が見え隠れする。  体が熱い。一人で慰めるしかないのか。アキの手は、シャツのボタンを外す。開いた胸元から手を入れ、乳首をまさぐる。今は自分の手でも嬉しい。  もう片方の手は、太腿に触れる。愛しい人が触れるなら、きっとこんなふうに焦らすだろう。太腿から脚の付け根に沿って。  “アキ、もっといやらしい声を出してごらん。そうすれば、一番触ってほしい所を触ってあげる” 「あ…は…」  “いい子だよ、アキ。…おや? 少し硬くなってるね”  シャツの裾を少しだけ持ち上げているそこに触れてみる。  ああ、もっと触って。痛いぐらい激しく狂おしく。今夜は誰か欲しいほどなんだ。  目を閉じ、体中をまさぐる。この手は自分の手ではなく、愛する人の手。 「アキ、何してるの?」  声の方に顔を向ける。とろけそうな目が、愛しい相手をとらえた。  体を起こしたアキの唇が奪われる。 「好きだよ、アキ」  アキは戸惑いながら、キスに応じる。カズハの舌を吸い、貪欲にむさぼる。その合間にも、カズハは“愛してる”とささやく。告白を受けながらのキスは、まるで相手を受け入れているようで――同じことが、前にもあった。東郷との共演を思い出してしまう。  アキのボタンが全て外された。薄い布の向こうで息づいていた、熱い体がさらされる。カズハが乳首に舌を這わせる。 「ああんっ」  二度の共演でアキが感じる所を知った舌は、乳輪まで丁寧に舐め、そのまま下へ、みぞおちからヘソに落ちていく。  細い指が勃ち上がったアキに絡まる。体中の熱が集中するそこは、カズハの舌を待ちわびている。  以前、カズハと共演したときには、アキは体調不良で勃起せず、精神的余裕がなかった。だが、精神的に落ち着いている今ならわかる。カズハのテクニックは、相当なものだ。 「どうしたの、アキ? どうしてほしい?」  マイクでギリギリ拾える音量で、カズハがささやく。その音量は、秘め事を覗いているというシチュエーションを、さらに演出する。 「口で…して」  恥ずかしそうに目を伏せ、アキはカズハに身を委ねた。  アキをあお向けに寝かせ、カズハはアキの屹立をくわえた。顔を上下させ、時々吸い上げる音が聞こえる。 「や…あ…もっと…」  もっと、というおねだりの声を聞いたのに、カズハは顔を上げる。 「もっとしてほしかったら、アキもフェラして」  アキとカズハはシックスナインの形で愛撫し合う。口いっぱい頬張ったカズハを、音を立てて思い切り吸う。 「んっ…! ふ…う」  アナルセックスほどの締め具合。強い吸引力のバキューム・フェラに、手慣れているはずのカズハが翻弄される。今夜は、カズハがアキを誘惑するつもりだった。それが逆に、アキのテクニックに溺れそうだ。  バキューム・フェラは、東郷がしてくれた。あの、体ごと引きずりこまれそうな吸引力には及ばないが、確かこんなふうに強弱をつけて吸ってくれたと再現する。 「う…あ…」  口の端から唾液が垂れ、カズハは同じようにアキを愛撫する。何もかも忘れるほどに強く吸って。体中に溜まった熱を発散させるために。 (東郷さん――)  なぜここで東郷の名が出るのだろうか、そんなことを考える余裕は、アキには無かった。  アキはカズハの尻に手を回す。指で溝を割って入り、シワをゆっくり押し広げる。 「う…ああっ!」  指の腹で蕾を丁寧に押す。壊れないよう、そっと。柔らかな蕾の感触を楽しむ指は、東郷の動きそのものだ。  アキが好きだから。壊したくない。東郷のそんな気持ちが、指先に表れていた。キスは荒々しかったのに。  東郷との共演を思い出し、無意識に体が熱くなる。  やがてカズハは射精し、アキも後を追うように果てた。

ともだちにシェアしよう!