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36.カズハと東郷の間で
「いやだっ、やめてください東郷さんっ」
狭い座席で、しかも壁際にいては逃げようがない。抵抗むなしく、アキはペニスをさらけ出された。だが、意志に反して硬くなり始めている。そこを手のひらで包み、軽くマッサージするように揉まれる。
「カズハにどんなフェラをしたんだ? こんな風か?」
東郷がアキの股間に顔を埋める。アキが東郷と共演したときや、アキがカズハにしたときと同じ、バキューム・フェラ。ぴったりと張りつく舌が、全てを吸いつくす。アキの理性までをも。
「あっ…いや、あ…」
今まで声をひそめていたが、無意識に声を出してしまった。まわりにも聞こえているはずだ。
じゅっ、と先走りを唾液ごと吸う音に、下半身が震える。
「あ…んっ…」
アキの下半身から力が抜けた。アキの手は、東郷の肩にしがみついていた。体を引き剥がそうとしてではなく、しがみついていないと、意識を失いそうで。
東郷がいきなり体を離した。
「嫌ならやめるぞ」
ここまで大きくされて、先端も濡れているのに。アキは涙目になる。
「と…東郷さん…意地悪…なんですね」
東郷は優しい目で、アキの髪を撫でる。
「嘘だ。そんな可哀想なことをするわけがないだろう。アキが本気で感じてくれたら、続きをしてやる。どうだ?」
アキがうつむいて、小さくうなずく。言葉に出すのが恥ずかしい。だが、言葉は出ずともすぐに嬌声がもれる。
「ああーっ」
亀頭部分を東郷の唇がすっぽりと覆い、舌が軟体動物のように蠢く。東郷の口の中でアキはビクビク震える。素早い舌がくびれもサオも捕らえ、暴れる獲物を制する。
「はあっ…、やだ…もう出そ…」
アキは顔を覆った。声が周囲に丸聞こえだ。
東郷の唇が離れた。アキの顔を覆っていた手が握られる。その手は東郷の股間に導かれた。
「アキ、いっしょにイクか」
よく知ってる硬さと反り具合。恥ずかしくて、あのホクロは直視できない。東郷がアキの中心を擦り始めると、条件反射のようにアキも東郷を擦った。
東郷がアキの肩を抱き寄せる。
「アキの声で、隣が盛り上がってるぞ」
壁の向こうでは、ギシギシと座席がきしむ音がする。耳をすまさなくても、激しい声が聞こえてくる。
(ああんっ、凄い…もっと…もっと突いて…!)
規則正しくきしむ音に、キスの音が混じる。あまりにも生々しすぎて、アキの手が止まってしまった。
「俺たちも繋がるか?」
「なっ…!」
さすがに首を縦に振れない。戸惑うアキの耳元に唇を近づけ、低い声で東郷がささやく。
「俺はタチもネコもいけるぞ。アキとのセックス、どんなに気持ちいいだろうな」
アキの中心に、一気に血が集まる感覚があった。東郷とのセックスを妄想して自慰をしたことを、思い出してしまった。
「この硬さで奥まで突いてみろ、お前にも天国を見せてやるぞ」
どんなに腰を使って東郷を喘がせてみても、きっと最終的には東郷の菊門に締めつけられて、翻弄されるだろう。そう考えると、先端がまた濡れてきた。
「逆に、アキの可愛いアヌスを、思いっきり愛してやってもいいいぞ」
あの優しい指で広げられ、アキがよく知る東郷のペニスを受け入れたら。どんなに中が満たされるだろう。
もう、先走りがこぼれるというよりあふれ出てきて、東郷の手が濡れている。
「愛してる…アキ」
そう言って東郷は唇を重ねてきた。互いに舌を絡め合い、擦る手もスピードが増してきた。
(はっ、はっ、イ…イクぅ…!)
隣の声がリンクする。アキの脳裏に東郷と肌を重ねている姿が浮かんでしまい、アキは射精した。ああ、服が汚れたかな、と気にはなるものの、東郷の唇から離れられない。そのうちアキの手にも生暖かい感触があった。二人の濃い匂いが充満する。
仕事でもないのに、東郷の手でイカされてしまった。最後の雫が先端から落ちた後、東郷はまた唇を重ねようとしてきた。顔を背けて拒もうとするアキだが、体に力が入らず抵抗できない。顎がつかまれて唇を奪われた。だが強引なキスというより、目覚めの挨拶のような、優しいキスだった。
外は夕方になろうとしている。コインパーキングに着くまで、アキは無言だった。
車の助手席に乗り、やっと口を開く。
「…東郷さんはあの店、違法だって知ってるんですよね。通報しないんですか?」
「通報したところで、うちにはメリットもデメリットもない」
「じゃあ、何であの店に入ったんですか?」
東郷はイグニッションキーを回し、車を発進させた。
「アキに触りたかったからだ」
出口のバーが上がると同時に、アキも顔を上げた。
「えっ…! それだけのために?!」
「カズハに煽られたからな。俺が先にアキちゃんをメロメロにしますよ、なんて」
カズハは大胆にも、東郷に宣戦布告をした。店長バーサス店のナンバーワン。二人がギスギスした関係になるのだろうかと、アキは不安になる。
「あ、あの…東郷さん…、カズハさんのお店での立場、その…悪くはならない…ですよね」
東郷は涼しい顔のまま、ちらりとアキを見る。
「前にも言っただろう。俺はそんな器の小さい男じゃない。カズハは大事なキャストだ」
それを聞いて安心した。東郷の懐の深さを知っていたとしても、大胆なカズハにはハラハラさせられる。
「まあ、カズハも」
笑いをこらえているかのように、東郷の声が少し弾んでいる。
「本気で俺と張り合おうとはしていないのかもな。何かあいつには思うところがあるんじゃないか、そんな気がしている」
その意味が、アキにはわからなかった。だが、二人に振り回されているようで、何となくアキは子供扱いされていると感じていた。
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