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41.鏡の向こうで

 東郷の携帯電話に着信があった。アキからだった。 《今日は少し、趣向を凝らしたイベントをしますので、午後三時から見にいらしてください》  本店も営業する時間だが、今日は須美もいる。 「三時からか。よし、時間どおりに行こう。何をやるんだ?」 《カズハさんと共演します》  東郷の眉が一瞬、ひそめられた。時刻は午後二時半。通話を切ると開店前の準備を済ませ、東郷は後を須美に任せて事務所を出た。  須美がパソコン画面をじっと見ている。 「あれ~?」  頭をかきながら考えこんだ後、ニヤニヤ笑いながらタバコのフィルターを噛んだ。 「アキちゃん、さては何か企んでるなぁ…」  鏡張りの長方形の部屋、中央に座ったアキは受話器を取る。 「一号室だね。ありがとう、花ちゃん」  受話器を置くと、カズハが横から抱きしめてきた。二人とも、白いワイシャツ一枚という姿。部屋にライトが灯る。鏡に映る景色も白く反射して、部屋はまぶしい白で彩られる。時刻はちょうど三時。 「アキちゃん、何して遊ぶ?」  カズハがアキの額にキスをした。アキがいたずらっぽく答える。 「お互いに触り合って、より感じさせた方の勝ち」 「面白いね、それ乗った」  カズハの唇が、アキの頬や首筋に落ちる。甘い恋人たちの戯れ。笑い声がくすくすともれる。互いのワイシャツのボタンを外し、素早くカズハが隙間から手を入れた。 「ああんっ」 「アキちゃんがここ感じるの、知ってるからね」  小さな乳首をキュッとつまむたび、アキがせつない声をもらす。 「カズハさんだって」  アキもカズハの胸元に手をしのびこませた。だが触るのもそこそこに、すぐに襟元を広げると片方の乳首に吸いついた。 「んっ…気持ちいいよ…もっと」  ちゅっと音を立てて吸うと、カズハの背中がのけぞる。シャツの裾が盛り上がってきた。そこをアキがやわやわと揉む。 「あ…アキちゃん…そんなに触ったら…ああ」  舌も手も休めない。カズハの息が荒くなる。 「アキちゃんも、もっと気持ちよくしてあげるね」  カズハはアキを床に押し倒し、ボタンを全部外した。カズハがアキの熱く勃ち上がった熱を口に含む。 「ああっ、カズハさんっ、いきなり…そんな」  マジックミラー越しに、アキがどんどん大きくなる様子が見える。東郷は唾を飲みこんだ。仕事の一環として見にきているのに、体はどんどん熱をはらむ。  カズハが股間から顔を離した。アキの顔を覗きこむ。 「あんっ、もっと…ねえ、もっと!」 「じゃあ、俺の勝ちでいい? アキちゃんが負けを認めたら、もっとエロいことしてあげる」 「本当? だったら、カズハさんの勝ちでいいよ。だから僕を好きにして…」  アキはカズハに抱きついた。カズハはアキをうつ伏せに寝かせると、シャツを脱がせ、尻を撫でる。 「あぁん…カズハさん…ここ…触って」  アキはうつ伏せのまま、尻を突き出した。  カズハが指を舐める。唾液をまとった指が間を割って入り、ピンク色の蕾の周囲を撫でる。 「あんっ、気持ちいいっ」  さらに尻を突き出し、ここに挿れてと催促する。 「好きだよ、アキちゃんのエッチな体」  背後からささやき、カズハは指を挿入した。 「ああーっ」  アキの頬が紅潮する。そんなアキの悩ましい表情を正面からまともに見た東郷は、黙って座っているのがつらくなる。今すぐにでもマジックミラーを割って、部屋に飛びこみたい衝動にかられる。 (アキをほかの誰にも触れさせたくない)  今までアキの共演は見たが、今回はまるで恋人同士だ。アキはカズハにすっかり甘えている。とても演技には見えないほど。  カズハがアキに覆いかぶさり、二人の体が重なる。『X-ROOM』では、アナルセックスは禁止している。だが、まさか挿入しているのでは――と疑ってしまう。カズハの腰が動いている。素股ならばいいが、と東郷は気が気でない。そのうち息遣いが激しくなり、アキも腰を浮かせて、カズハの動きに合わせて腰を振る。  カズハはアキの赤くなった耳を甘噛みし、ささやく。 「アキちゃん…もう誰にも渡したくない…!」 (それは俺の台詞だ!)  鏡の向こうに伸ばせない東郷の手が、膝の上で拳となって震える。 「カズハさん…僕、もう我慢できない…体が熱くて…」  カズハが汗ばんだアキの髪を撫でる。 「きっと、あなたも僕に触れたくてたまらないよね?」  どういうことだろうか。東郷の拳から震えが消えた。カズハはずっと、アキに触れている。  体を起こしたカズハが、アキの太腿を撫でる。 「ずっと、あなたのことばかり考えてる…あなたがいつも、頭の中から離れない」  アキはうわ言のように繰り返す。 「だったらアキちゃん、そろそろオプションタイムにしよっか」  アキが体を起こす。カズハはシャツを羽織ると部屋を出て行った。どういう意図のイベントかわからず、東郷は個室でずっと固まっていた。四つん這いで床を這い、アキが正面の鏡まで来た。鏡を開ける。そこには、驚いた東郷の顔があった。  アキの手が伸びる。指先まで熱くなった手は、優しく東郷の頬を包む。 「お待ちしてました、東郷さん…いえ、勝さん」

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