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13.今宵、唇を奪うのは
「カズハさん、今日はありがとうございました」
更衣室で、アキはカズハに深く礼をする。アキの方が『X-ROOM』に長く在籍しているが、カズハの方が三歳年上だ。アキは丁寧に礼を言った。
「いいって、いいって。アキちゃんの体調が戻るまで、いつでも共演してあげるよ」
顔を上げたアキの顎が、細い指にすくわれる。目の前には、妖艶な笑みを浮かべるカズハ。
「何となくアキちゃんとは体の相性もいいと思うんだ。よかったらプライベートでも組んでみない?」
それは、付き合えという意味。強引さは無いものの、目が真剣だ。まるで、アキ以外のものは目に入らない、といったふうに。
「いえ…あの、僕は…」
返事に困っていると、カズハが肩を抱いた。もう片方の手は、太腿を撫でる。
「今でも奏くんのこと、好きなんだ」
アキの肩がビクリと震えた。奏が好きだと、カズハには一度も話したことがないはずだ。
「あ、あの…」
「隠さなくてもいいよ。奏くんといるときのアキちゃん、いつもと全然違ったから」
カズハの手が、太腿の内側にすべる。
「まるで恋する乙女みたいな。いいね~…俺もあんなふうに見られたい」
陰部の辺りまでは上がって来ないが、アキは恐れてカズハの手を押さえる。
「カズハさん、冗談はやめてくださいよ」
笑顔を向けるものの、押さえる手は震えている。そんなウブな反応が、カズハを喜ばせる。
「可愛い~。ウサギちゃんみたいに震えて。できれば俺、この先もアキちゃんと組みたいよ。舞台の上でならいっぱいいやらしいこと、公然でできるからね」
肩を引き寄せるように、手に力をこめる。だが、それ以上近づいたりしない。相手が両手で押し返せる距離だ。経験豊富なカズハは、誘う段階での有効な距離を知っている。言葉次第では落ちてしまいそうな距離だ。
「その…カズハさんとはペアをお願いしたいんですけど…」
その先をはっきりとは言えないアキに、カズハは苛立つこともなく、優しく髪を撫でる。
「うん、いいよ。アキちゃんの望みなら叶えてあげる」
カズハはアキの腰に手を添え、耳元でささやいた。
「奏くんより好きになってもらうよう、いっぱいエロいことしてあげるね」
手を離し、お疲れ様、とカズハは更衣室を出た。誘ってきたのが奏ならば、二つ返事で承諾しただろう――そんな妄想を振り払うように、アキは頭を思い切り振った。
昼下がり、奏の店『ノアール』は客足が落ち着く時間帯だ。今は客が誰もいない。奏が昼食を済ませて休憩していると、自動ドアが開いた。
「東郷さん…! いらっしゃい、お久しぶりですね」
「キリマンジャロを頼む」
香りのよいキリマンジャロを淹れ、奏はカップが乗ったソーサーを東郷の前に置く。鼻腔にほろ苦い香りを漂わせ、東郷はコーヒーを飲んだ。
「ほう…いい味だな。今まで来なかったのが残念だ。豆から厳選しているだろう」
「ええ。コーヒーオタクですから」
にこやかに返す奏と雑談をしながら、東郷はコーヒーを飲み干した。
「実は奏に、頼みがあって来たんだ」
いきなりそう言うと東郷は席を立ち、床に膝をつき、土下座をした。
「ちょっと、東郷さん?!」
「こんなこと、奏にしか頼めないんだ!」
音楽が流れ、ライトが徐々に明るくなる。『X-ROOM』の人気キャスト二人の共演が、今夜も始まる。優雅に絡み合う万華鏡の世界は、めくるめく倒錯に陥る花二つ。
ポールにつかまり、膝立ちになったワイシャツ一枚のカズハ。その後ろには、同じく膝立ちでワイシャツ姿のアキ。アキはカズハの顎を捕らえて自分の方に向かせると、いきなり激しいキスを交わす。
舌を絡ませる合間に、アキはカズハのシャツのボタンを二つ開け、隙間から手を入れる。その手がどんな淫靡な動きをしているのか、カズハは早くも声が上がる。
何となくカズハから誘われたときのことを思い出してしまうアキだが、今は集中しなくてはならない。今度は裾から手を入れ、脚のつけ根あたりを揉む。
「あっ…、ああん、そこ…」
カズハはアキにもたれかかる。シャツの中で蠢く手は、カズハにどんな刺激を与えているだろう。客がそんなふうに想像を始めるころ、アキはシャツのボタンを全て外した。
ピンクに熟れた乳首と、薄い茂みに覆われた硬い中心が現れる。
アキが後ろから両の乳首をつまむ。カズハは甲高い嬌声を上げ、硬い茎をピクリと揺らした。
カズハをポールの前に立たせると、アキは乳首に吸いついた。舌の上でピンクの実を転がし、歯を当てて軽く甘噛みする。
そろそろ下半身への愛撫が始まってもいいころだ。だが、指先が鼠頸部や内腿を撫でるだけ。カズハも客も焦らされている。そこはアキも心得ていて、客に退屈な思いをさせない。愛撫をしながら自分のボタンを外し、色っぽく肩を出しながらシャツを滑らせる。隠された真珠の肌が、万華鏡の中で花開く。カズハのヘソの周囲を舐めながら、尻を突き出す。双丘の奥に眠る蕾が、鏡に映し出される。客を誘い惑わせる、ほんのり赤い蕾は、今宵も多くの男に視姦される。
床にひざまずくと、アキがいきなりフェラチオを始めた。カズハの淫らな声が、万華鏡の中で響く。
「んっ…、ああ…、すご…く…いいっ…、はぁ…」
鏡にいくつも映る小悪魔は、天使が淫らに墜ちていくまで愛撫を続ける。カズハの膝が震える。アキが顔を離すと、翼をもがれた天使は、床にひざまずく。
鏡の中で舞っていた天使は、地に墜ちて悪魔の仲間になる。カズハはゆっくりアキを押し倒すと、お返しにフェラチオをした。今度は小悪魔が喜びの声を上げる。
「あぁん…、そこ…、はぁ…もっと…」
ほのかに赤みがさした胸が上下する。真珠の肌が薔薇色に染まり、万華鏡を華麗に彩る。
回転が止まった。オプションタイムだ。アキはカードを挿入された鏡を開ける。そこは、リップサービスのオプションを申し込んだ客がいる。
「あっ…!」
客の顔を見たアキは、仕事であるのを一瞬忘れ、驚いた表情になる。
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