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15.主と奴隷
今日もアキはカズハと組んで出る。カズハに甘えっぱなしで、カズハの気持ちを利用しているような気がして、アキはうしろめたい思いだが、しばらくの間はカズハの助けが必要だろう。
ビルに着くと、事務所に顔を出した。
「おはようございます」
ドアの方に顔を向けた拍子に、須美のくわえ煙草の灰がデスクに落ちる。
「アキちゃん、おはよー。実はさ、カズくんが事故っちゃって、しばらくは休みなんだ」
「えっ…! カズハさんが…」
須美はくわえていた煙草を灰皿に押しつけると、アキに説明した。
「うん、傷自体は大したことないんだけどね」
カズハは来る途中、バイクで転倒した。幸い軽傷なのだが、事務所で東郷と須美が見た限りでは、肘やスネにかなり目立つかすり傷があり、腕に青アザもあった。体を見せる仕事のため、とてもショーに出られる状態ではなく、傷が目立たなくなるまで休むとのことだ。
説明を聞いたアキは、大ケガでなくて安心したが、今日の仕事が心配だ。
「アキ、今日の仕事は心配するな。お前は全く勃たない体ではないと証明できただろう」
「けど、あのときは――」
“自分の力じゃない”そう言おうとしたとき、東郷が立ち上がった。
「俺がアキと組む」
驚きのあまり、アキは東郷の顔を見つめたまま、声が出なかった。
店長がショーに出る。前代未聞だ。
「俺はゲイ専門のSMクラブにいたこともあった。SとM、どちらも演じれる」
「スグルちゃんは、歳の割にはいい体してるよ。昔っからジムで鍛えてたからね」
体型を維持するためにトレーニングをしていた東郷は、三十四歳にしては肌つやもよく、体が引き締まっている。ゲイの男性に好かれそうなその肉体の持ち主が、M役をすると言う。
開店時間が近づいてきた。簡単な打ち合わせをすると、二人は衣装に着替えた。
“急遽スペシャルショー開催”の文字が『X-ROOM』のサイトのトップを飾り、受付には大きな貼り紙が出された。
ライトに浮かび上がるのは、後ろ手にされ、ロープでポールにくくりつけられた、たくましい体躯。ぴったりと肌に貼りつく黒いレザーパンツ一枚で、上半身は少し日に灼けた肌をさらしている。肌のきめは細かく、筋肉の隆起が美しい。うっすらとシックスパックが浮かび上がる腹周りに、無駄な肉はいっさい無い。ライトの当たり具合でみぞおちや背中、筋肉の凹凸が影を作り、レザーパンツの股間は中のモノの形を浮かび上がらせる。まるで完成された彫刻だ。
その彫刻の男は、目の前の男を見下ろす。その目に高圧さはみじんもなく、情けなくお仕置きされるのを待つ奴隷そのものだ。
サスペンダーつきの黒いショートパンツに黒い革ブーツという姿の主・アキは、大きな羽根ぼうきを手に、奴隷・東郷の周囲をゆっくりと歩く。
羽根は東郷の乳首をくすぐる。我慢できずに東郷は体をよじる。だが、羽根はヘソや脇腹に触れ、東郷の喉仏が動き、小さな喘ぎ声を出す。
「僕がお行儀のいい犬になるよう、躾けてあげるよ」
アキは後ろから、東郷の股間に触れる。普段は店長と従業員という関係だが、この万華鏡の中では立場が逆転している。東郷は今、されるがままの奴隷だ。
「ああっ…」
ガタイに似合わず弱々しい声を漏らす奴隷に、主は妖しげな笑みを浮かべる。
「はしたない、そんな声を出して」
アキの羽根ぼうきが、レザーパンツの上から撫でる。体に貼りつくレザーは、その下で卑しく興奮するイチモツをくっきりと表している。
「これだけで、もうこんなになってるの? こんなお行儀の悪い犬は、お仕置きしなきゃね」
細い指先が乳首をつまむ。少し背伸びをして、アキは東郷のうなじを噛む。
――僕に従え。お前は僕の犬――
完璧な主従関係ができあがると、東郷は息を荒くし、潤んだ瞳でお仕置きを待つ。
主が犬の腰骨あたりに手を添えた。そこにあるジッパーを下ろし、レザーパンツをずり下ろした。飛び出した肉茎は、すでに硬くなっていた。アキの羽根が先端を撫でる。
「いやらしい汁で、この羽根を汚しちゃダメだよ。きちんと“待て”ができるまで、我慢するんだよ」
羽根はくびれを、サオを、陰毛を撫でる。もう片方の手は背後から乳首を引っ張る。たくましい体にそぐわず、東郷は身をよじり、情けないほどの声を出す。
「ああっ…、ふぁ…」
「まだだよ。卑しい子だね。そんなに飢えてるの?」
アキの手のひらが、東郷の頬を打つ。ゆるく打ったため衝撃はないが、タイミングよく東郷が顔を背けたために、鏡の向こうの客たちには痛そうに見える。あのたくましい体がどれだけいじめられるのか。抱かれてみたい、そんな理想の体を持つ男が、アキの言いなりだ。客たちは身を震わせ、自身を慰める。
「いやだ…我慢でき…ない」
羽根ぼうきが東郷の少し反って勃っている中心に触れる。今すぐにでもロープを引きちぎり、思い切り扱きたいという衝動にかられ、東郷は腰を振り始めた。アキの羽根に合わせ、少しでも刺激になるように。
「おや? 汚しちゃダメだって言ったでしょ。言うことが聞けない子は、少し厳しく躾けないとね」
今宵は黒く濁る万華鏡。きらびやかさを捨てた万華鏡だが、それでも主従の二人は美しく回転を続ける。
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