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20.悪魔の子犬

 アキの右手が、東郷の股間に伸びる。浮き出た形に沿ってふわりと優しく撫でる。アキが東郷の前にひざまずき、パンツの上から股間を舐めた。舌は生地越しに東郷自身を強く押す。ジッパーの金具を、歯で挟む。そのまま少しだけ下ろすと、アキは意地悪な目つきで東郷を見上げた。  ジッパーは下りない。荒くなり始めた息で腹筋が上下しているその下で、縁からはみ出した陰毛に隠された東郷の秘部は、アキの愛撫を待っている。  だが、アキは東郷の太腿あたりを舐め始めた。時々噛みついては、東郷の大腿筋が引き締まる。  ヘソを舐め、脇腹を噛む。じゃれつく子犬は徐々に上へと唇を移動させ、攻め立てた。  厚い胸板を彩る、少し色黒な二つの乳首。右側に舌を這わせると、左側を強くつまむ。 「あ……」  東郷が背中をのけぞらせると、ジッパーが少し下りて、さらにはみ出した茂みの下で、窮屈そうにしている根元が現れた。  アキの貪欲な歯は、東郷の肩や腕を噛む。いたずらな舌は、乳首や鎖骨を這い回る。 「うっ…、はぁ…」  アキが東郷の首筋に腕を回して抱きつき、喉仏の周囲を舐める。密着した状態で、アキが股間を擦りつけた。東郷の部屋での出来事が、アキの脳裏に蘇る。だが、スポットライトが当たるこの空間では、恥ずかしささえ自分を奮い立たせる官能的な媚薬になる。アキのいやらしい腰つきに、鏡の向こうの客は視線が釘づけになる。  激しく擦りつけたせいで、東郷のジッパーが少し下りる。硬い幹がジッパーを押し、勢いよく勃ち上がった。  アキが再びひざまずく。早くも濡れた先端を口に含むと、強く噛んだ。 「ああーっ、いい、凄くいいっ…!」  東郷は腰を振り、もっと噛んでとねだる。一度顔を離したアキは、歯をむき出すように大きく口を開け、さらに奥深くかぶりついた。 「うぁっ…、いいっ…、もっと…!」  情けなく懇願する東郷の背に回り、アキは東郷の尻を叩く。 「そんなはしたない声を出す子は、お仕置きだよ」  パンッと音が響く。筋肉質で引き締まった尻を左右交互にパンッ、パンッとリズムよく叩くと、尻はキュッと締まる。その鍛え上げられた肉体が、情けなくスパンキングで仕置きされる。今宵の万華鏡を彩るのは、耳に心地よく残る音だ。  東郷はポールにつかまり、尻を突き出した。叩かれるたびに嬌声を上げる東郷は、うっとりと夢見心地な表情を浮かべている。 「君へのお仕置きは、やっぱり噛んであげることかな」  ひざまずいたアキが、東郷の尻の肉を噛んだ。 「ああーっ!」  アキが勢いよく吸いつき、少し首をひねる。きれいに歯型がついた。イタズラな子犬はおもちゃである奴隷の尻、左右ともに歯型をつける。  舞台の回転が止まり、オプションタイムが始まった。アキはポールにつかまり、股間を押しつける。向かい合って立つ東郷が、アキの尻を引き寄せた。尻を揉みながら、激しく唇を重ねる。アキの唇の隙間からは、小さな声がもれる。その瞬間、東郷がささやく。 「好きだ、アキ」  アキの体が一瞬強張る。互いに舌を差しこんでいたが、東郷のそんな言葉を聞いた以上、口づけを交わしているとアキも東郷が好きになってしまったような錯覚に陥る。  プライベートなら、東郷の体を押しのけていただろう。だが、今はショーの最中だ。この万華鏡の中にいる二人は、仮初めでも愛し合わなければならない。アキの中に入ってきた舌を受け入れる。  不思議な感覚だった。アキが勃起している。先端がじわりと濡れているのを感じる。  アキは東郷から離れ、一つの鏡の前に立つと、ジッパーを下ろしパンツを脱いだ。膝立ちになり、そのパンツを陰茎にかぶせ、自慰を始めた。先端からはしずくが止まらない。つい先日まで勃たないと焦っていたのが嘘のようだ。 「んっ…、あ…僕の…いやらしい汁…いっぱいつけてあげるね」  アキは鏡の下を開けた。客が手を伸ばす。カウパー腺液がたっぷり染みたパンツを、その手に渡した。今回は生パンツプレゼントのオプションがある。受付で申込者の抽選があり、当選者に渡される。  アキが別の鏡を開けた。そこはハンドのオプションだ。下半身を丸出しにした状態で椅子に腰かけ、待ち構えている客がいる。アキは床を這い、手を伸ばす。勃ち上がったモノを握ると、ゆっくりと上下に擦る。  あふれた汁を亀頭に塗りつける。くびれやサオを濡れた手がすべる。鏡の向こうからは、小さな喘ぎ声と荒い息。  不意に、背後から東郷が覆いかぶさり、アキに手コキした。  優しく袋を揉み、根元からゆっくり撫で上げ、くびれをギュッと強く握り、サオを擦る。その動きは、まさに今アキが客に対してしているのと全く同じだ。東郷がアキの動きに合わせている。アキは他人のモノを触っていながら、自慰をしている錯覚を起こす。それが妙に恥ずかしい。だが、アキはその恥ずかしさを“ショー”に変える。 「ああんっ、凄く気持ちいいっ…! ねえ、あなたも…ここがいい…?」  アキは根元から強く擦り上げる。鏡の向こうで“ああ”と聞こえる。 「嬉しい…! 僕もう、イッちゃいそう…。僕がイクところ、見てて……あっ!」  アキの先端から、精液が飛び出した。射精した瞬間に、アキの手は客のくびれ部分をギュッと握る。その拍子に客も射精した。 「いっしょにイッてくれて、ありがと。オナニーしてるみたいで楽しかった」  余韻を残し、鏡が閉じる。鏡に映し出されたのは、頬が紅潮した淫靡な表情だった。古代よりの伝承ならば、悪魔は鏡に映らない。だが、万華鏡の鏡は小悪魔のすべてを映し出す。

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