21 / 46

21.閉じた目に浮かぶのは

 客は喜んでくれた。だが、アキは一度射精してしまった。フィニッシュの素股はどうなるのか。前回は東郷のおかげで二回射精できたが、今回もそうとは限らない。  あお向けの東郷はパンツを取り払った。アキがローションを東郷の陰部に塗りたくる。覆いかぶさったアキが、東郷の顎を噛む。髪をつかみ、乱暴なほど激しく唇を重ねる。東郷の舌が絡みつき、歯がぶつかる。まるで久しぶりの逢瀬であるかのようなその熱烈ぶりは、これが演技なのかと客が不思議に思うほどだ。  アキが再び勃起した。東郷の陰嚢の下に、ぬるりと滑りこませた。 「あんっ…」  挿入とはまた違うその感覚は、ほどよい加減で肉に挟まれて、クセになりそうな感触だ。東郷が腕を伸ばし、アキの尻をつかむ。その手は徐々に奥に侵入してくる。ローションにまみれた指は優しく秘門を広げる。挿入することはなく、ただ周囲を愛撫してくれる。 「あっ…はあ…、気持ちいいっ」  鏡の外に聞かせる声だが、無意識のうちに出た声だ。アキは背中をのけぞらせ、そそり勃つ東郷をつかむ。上下に擦ると、グチュグチュと音がする。手の温度で温まったローションは、動きをなめらかにしてくれる。  野獣のような荒々しいキスとは対照的に、後ろをいじる指は優しい。それが東郷の愛し方だ。全てを奪いつくす強欲さと、慈しみ。アキは腰を動かしながら、このまま東郷に溺れてしまうのではと怯えている。だが、そんな心配はいらなかった。東郷のテクニックに、思考が全て飛んでしまいそうだ。  東郷が腰を浮かせた。額には汗がにじんでいる。 「あっ…、もう…イク…!」  東郷が射精した。二回、三回と噴射しているその下で、自分は東郷の袋と太腿にペニスを挟んで疑似セックスをしている。そのエロティックさが、アキの背中を震えさせる。 「は…あっ…」  アキが腰を引く。白い液が東郷の腹に散る。最後の一滴を出し終えると、アキは東郷に覆いかぶさりキスをした。激しく舌を絡め、互いの唾液を味わうようなそのキスは、照明が落ちるまで続いた。  その日の営業終了後、東郷はアキを誘わなかった。次の打ち合わせの話もしない。カズハの怪我が治るには、もう少し時間がかかるはずだ。だが、自分からは打ち合わせの件を言い出しにくく、アキは挨拶をして家に帰った。  深夜の自転車通勤が、寒くて辛くなる季節だ。もう日付も変わっている時刻で、母親と妹は寝ている。冷蔵庫に夕食の残りがあり、それを温めて食べ、風呂に入り、昼ごろまで寝る。それがアキの日課だ。夜の仕事のため、体の心配をしてくれる母親と妹に申し訳ない。それ以上に、職場が居酒屋だと嘘をついているのも、胸が痛む。いつかは正社員で仕事を探し、母親と妹に胸を晴れるようになりたいと思う。  アキは布団に入り、目を閉じた。真っ暗な世界に映るのは、まぶしいライト。その明かりに浮かび上がる、彫刻のような磨かれた肉体――東郷だった。  なぜ東郷が。こうして仕事の後に奏を思い出すことはあったが、ほかのキャストとのことは思い出さない。それほど、東郷の演技が体に染みついているのか。  荒々しいキス、オプションのときには、自分の手と同じ動きで擦ってくれて、後ろの恥ずかしい所まで優しく愛撫してくれた。一通りのショーを頭の中で再現していると、いつの間にか勃起していることに気づいた。 『X-ROOM』で共演する二人は、後に付き合うこともある。仕事とはいえ唇を重ね、愛撫し合ううちに情がわいてくる。  もしも今、先日のように東郷に抱きしめられたら、断り切れないのでは。その証拠に、東郷のことを考え出してから、勃起がおさまらない。  パジャマのズボンの上から触れてみる。もし、ここに東郷がいたら、どんなふうに触れてくれるだろう。こうして優しく揉みながら、“アキ、愛してる”とキスをしただろうか。  妄想が止まらない。恥ずかしがるアキの服を脱がせ、体中にキスを散りばめ、勃起したアキを口に含んで、バキューム・フェラ。アキはその様子を想像しながら、自慰にふけった。  シックスナインで自分も東郷を頬張る。何度も見て、この手で気持ちよくしてあげた東郷のペニス。  ショーではM役を演じていた。実際のセックスではどうだろう。自分がいじめれば、東郷は応えてくれるだろうか。そう考えると、背中をゾクゾクと走るものがある。  肩に歯形を、背中に爪跡を。あのなめらかな肌に傷をつけるのはもったいないが、自分のものであるという証に。キスマークのつけ方を、もう一度教えてもらえるだろうか。  逆に東郷がSならば、冷ややかな笑みを浮かべて言葉攻めをするのだろうか。 (こんなにがっついて、いやらしい子だな) (今日はどんなふうにいじめてやろうか)  引く耳元でささやかれるのを想像すると、先端が濡れてきた。自分でそんな妄想をするのが恥ずかしくなり、アキは何も考えないようにして必死に手を動かす。それでも東郷の姿は消えてくれない。広い肩幅、引き締まった尻、たくましい腕。少し曲がってそそり勃つ、ホクロのあるペニス。  やがてアキは欲望を全て吐き出した。ティッシュで処理をした後、恥ずかしさが増してきた。東郷の顔を見づらい。次にペアを組んだら、自分はどんな反応をするだろうか。  うとうとし始めたが、それでも思い出すのは東郷の端正な顔だった。

ともだちにシェアしよう!