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22.金色の万華鏡

 次の出勤日、アキはいつものように事務所に顔を出した。東郷はいない。少し安心して、須美に挨拶した。 「おはようございます、須美さん」  須美もいつものように、デスクでくわえ煙草だ。 「おはよー、アキちゃん。今日からしばらくスグルちゃん休みだかんね」 「えっ…、どこか具合でも?」  違う違う、と手を振り、須美は煙草を灰皿に押しつける。 「ちょっとヤボ用でね。あ、身内の不幸とかでもないよ」 「そうですか」  アキの安心しきった笑顔に、須美は意地悪な笑みを向ける。 「スグルちゃんに、アキちゃんが心配してたって言っといてあげようか?」  須美は東郷がアキに告白したのを知っているのだろうか。そんなふうにからかわれ、アキは赤面する。 「い、いえ、別にいいですっ。準備してきますっ」  慌てて事務所を出ようとするアキを、須美が呼び止める。須美はスーパーのビニール袋を手に立ち上がった。 「カズくん、来週からは出られそうだけど、今日はアキちゃん一人で大丈夫?」 「はい、大丈夫だと思います」 「ならよかった」  須美はビニール袋をアキに渡す。 「これ、当分の衣装ね」  中を見ると赤やピンク、金色やラメ入りなど派手なビキニパンツが何枚も入っている。 「この前の生パンツプレゼントのオプションが好評でさ~、問い合わせ殺到しちゃって。抽選はずれたお客さんから、生パンツの機会増やしてくれって」  須美は上機嫌でニヤニヤ笑う。パンツの代金の、約四倍のオプション料金を取り、キャストと店で折半する。店としても楽な売り上げの増し方だ。 「僕としてもオプション代が入るのは嬉しいけど、パンツ一枚だと徐々に脱いで見せる、っていう段階が無い分、動きが難しいんですよね。上に何か着てもいいですか?」 「そうだねえ~…ま、いつもみたいにガウンとかバスローブとかシャツを着ててくれてもいいし。あとはポールダンスしときゃいいし。本格的なダンスでなくてもいいから、ポールにつかまって尻でも振ってりゃ、客は喜ぶよ」 「オプションまで間が持たなくて、困るときがあるんですよね」  苦笑しながら吐露するアキだが、舞台に上がると一変して淫靡な小悪魔に変わる。そのため、あえて具体的な指示を須美は出さない。ぶっつけ本番で、最大の魅力を発揮する、アキのそんな長所を知っているから。  万華鏡に明かりが灯る。テナーサックスとピアノのムーディな音楽に乗せ、ワイシャツを羽織ったアキはポールにつかまり、くるくると回る。シャツの裾から覗く、ポールと同じ金色のビキニパンツが、照明を受けて輝く。  ポールに腰を擦りつけ、うっとりした目で乳首をつまむ。尻を突き出し、パンツをずらして割れ目を見せる。徐々に淫らになっていく万華鏡で、アキはどれだけ乱れるのか。  ポールに寄りかかったまま、股間を揉みほぐし、腰をくねらせる。金色のビキニパンツははっきりとアキの興奮の証を浮かび上がらせる。もう窮屈で、先端が少し縁から出ていた。  アキはポールにつかまり、腰を前後に振る。揺れるたびにパンツがずれて、カリ首までが現れた。  そのセックスを思わせる腰の動きは、客だけでなくアキ自身を熱くさせる。アキの脳裏に浮かんだのは、東郷だった。妄想で自慰をしたのを思い出す。なぜ東郷のことばかり考えるのかと戸惑うアキだが、今は仕事のために利用させてもらう。  東郷とのセックスはどうだろう。素股とは比べ物にならないほど、気持ちいいだろうか。アキは男性とのセックスの経験は無い。するとすれば、挿入する方される方、どちらだろう。  アキはパンツを脱いだ。それを屹立に被せ、扱き始めた。もしも挿入する側なら、こんなふうに全体を締めつけられ、腰を振るたびに東郷がエロティックな表情へと変わるのだろうか。  逆に挿入されるなら。アキは尻を突き出し、割れ目に指を添わせ秘門に触れた。この間のようにアヌスに優しく触り、慣らして広げてから、あの硬い東郷が入ってくる。  ジン、とアキの体が熱くなった。まだ前半なのに、射精しそうな感じに襲われた。  ちょうど舞台の回転が止まり、オプションタイムに入る。  アキが鏡の下半分を開けると、客が手を伸ばす。アキはパンツを渡し、客の手を握った。 「これでオナニーしてくれるんだよね。嬉しいよ、ありがと」  もし今でも東郷が素性を隠して客として紛れていたとしたら。アキのパンツを受け取るだろうか。そんなことを想像すると、ふと笑みがもれる。  次は会話オプションだ。アキは受話器を使って、別の鏡の客と話をする。  ポールにつかまり膝立ちになって、艶を帯びた声で自慰を始める。 「ああん…、ねえ、僕がオナニーしてるとこ、見てくれてる?」  《ああ、見てるよ。今度は尻の穴を見せてくれ》  アキは鏡に尻を向け、四つん這いになる。指で蕾を押し広げる。 「なんだか恥ずかしいよ…。もしかして、僕とセックスすること、想像してる?」  それはアキ自身だった。東郷とのセックスを想像し、ボルテージを上げている。  《そうだ。アキのその可愛いケツにぶちこんだら、気持ちいいだろうな》 「やだ、想像してしまうよ。ほら、いやらしい汁がいっぱい出てきた」  先端を指で擦り、先走りを指になすりつけて客に見せる。  《アキのエッチな鳴き声聞きたいよ》 「ああん、僕のここ、もうあなたを欲しがって疼くんだ」  蕾に指を入れ、雄しべから取った蜜を塗りつけてさらに広げる。東郷がアキ浴びせるいやらしい言葉は、どんなのだろう。 (アキ、どんないやらしい顔をしてるか見せてくれ)  恥ずかしくて目を閉じるアキに、東郷はそんなことを言うだろうか。意地悪な要求を聞いた後は“アキ、可愛い”とキスをしてくれるだろうか。  《ほら、俺にいやらしい顔見せろよ。アキはエッチな表情が一番可愛いからな》  まさに妄想どおりだった。東郷とのセックスでは、きっとこんな顔になるだろう、とアキは思い切りとろけそうな目で口を半開きにして、鏡の方を向いた。客からはガラスでアキの顔が見えているが、アキの方はただの鏡だ。淫乱な自分の表情が映っている。これを東郷に見られるのかと想像するだけで、一点に血が集まって熱くなる。

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