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第4話 『椿』は、あの椿

僕は兄と名乗る『椿』の言うととおりに朝食を食べて、風邪薬を飲んでから、僕の部屋にあるベッドに入った。 そのときには僕の身体は高熱でフラフラしていて、ほとんど『椿』にベッドに運んでもらうような状態になってしまった。 「窓なんて開けっ放しで寝るから冷気が入って寝冷えしたんだ。俺に話しかけてくれるのは嬉しいけど、もう少し自分を大切にしないと安心して東京に行かせられないだろ」 え? 今この兄と名乗る『椿』はなんて言ったの? 「『俺に話しかけてくれる』ってどういう意味なの?」 「そのまんまだよ。俺の本体は、あの『椿』だ」 「はっ?……ちょっと待ってっ!!僕熱で変な夢見てるんだよね?病気で弱気になってるから」 僕は混乱した。 だってあり得ない!! 『椿』があの椿、僕の記念樹だって言うから。 「幼い頃から冬馬は俺に話しかけてくれた。だから嬉しかった気持ちが大きくなっていってね」 僕は自分に都合良い夢をみている、そうに違いない。 「ある年……確か十年位前の冬馬の誕生日の前々日に、今年みたいに熱を出したの覚えてる?母さんも父さんも仕事で面倒を見れないと言い合いになってて。だから俺が人間だったら兄ちゃんになって看病するのにって思ってたら神様が降りてきたんだ」 「……なにそのファンタジー的要素!!」 「その年から俺は数日間僕は冬馬の兄ちゃんの『椿』になれるようになったんだ。不思議と冬馬達も受け入れてくれてたし」 『椿』は次の瞬間には淋しそうに、それでも優しく笑って言った。 「でも、今年は冬馬に受け入れてもらえなかった。この兄弟ごっこは今年で終わりだろうね」 『椿』の背にはあの記念樹の『椿』を背負っているように見えて、淋しい気持ちは僕も『椿』も一緒なのかもと思ったら、親近感を感じていた。 「じゃあ、今年も数日間で良いから僕の兄さんでいてよ」 「冬馬」 「今年で最後ならさ、自覚がある僕を思い出にしてよ」 「……とうまっ!!やっぱり冬馬はいつも通りの優しい子だ!!」 椿は寝ている僕の手を両手で強く握りしめてきた。 「椿、痛いよ……」 「冬馬、大好きだよ」 そう椿は囁いて僕の手にキスをした。 「え?!……植物の世界では兄弟同士が手にキスなんてするの?!」 「……するよ。冬馬だって植物の俺の葉や花にキスしたことあるだろう」 「それはだって!!綺麗だったから、つい」 「なら、不思議なことじゃないだろ」 「……そうかな?」 こうして僕は椿と兄弟ごっこをはじめた。

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