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錦田教授のメモ②
蔵の中のアヘンの塊は、また厳重に桐の箱に戻された。
錦田教授は険しい症状を保ったまま、浦島の記録の訳を再開した。
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私は、老いた身体や苦しい精神状態を晴れやかなものにしてくれる、素敵な薬と出会うことが出来た。ただの黒い塊であるが、大変に私の身体には役立った。
乙姫は、もう少し即効性のある摂取の仕方があると言い、私を自室へ呼んだ。
私は漁網を作る仕事をしていてとても手先が器用であったため、花の実から汁をとる布を織って欲しいと、乙姫は私に頼むのであった。
この黒い塊・・つまりこの恍惚感を与えてくれるすばらしい薬を、乙姫たちは『亀』と呼んでいた。この薬は花の実から作るのだが、その実が、まるで亀の頭のような形をしているからなのである。
「この「亀」は、自分たちが使うだけの薬ではなく、広く人々に広め、有効に利用する価値のあるものであるから、大量に作らなければならないのです、浦島さん、是非協力してくださいますね」
乙姫は美しい顔で私を見て、言った。
乙姫は、私の耳元で、「報酬はいくらでも払います」と言って、私の着物に手を入れ、私の乳首を、やわらかいものを潰す様な指の動きでしごいた。
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錦田教授は、目をきつく瞑り、唸った。
「浦島は、もともと若い男子を集めて暮らし、男好みをする性質であったようだが、乙姫にもその気質があったようだね、このまま訳を続けていいだろうか?このような描写は省かなくてもいいのかな?」
錦田教授の問いに、俺はただうなづくことしか出来なかった。
訳はそのまま続行された。
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乙姫の依頼を受け、私は今まで織ったことのない繊細な糸で布を織った。
城内では、私の織った布を使い、今まで以上に効率よく葱坊主から汁を絞ることが出来るようになった。そのことが評価され、私は乙姫から「亀」を大量に報酬として得ることが出来た。
「亀」は、1日2度ほど噛み、茶と一緒に頂いた。効果はゆっくりとあらわれて、ゆったりとした気持ちで休むことが出来た。
亀を服用した後は、頭がすっきりとし、仕事にも精が出た。
乙姫のもとで布を織りながら1年ほど暮らしたとき、私を手伝っていた若い男が私に声をかけてこう囁いた。
「浦島さん、火の部屋へは行かれましたか?」
「火の部屋?」
私は何の事なのかがさっぱり分からなかった。
その若い男はイオリという名で、私と同じ時期に船の転覆事故により海に投げ出され命を落としそうになったのを乙姫に救われ、それからずっと城の中で働いてきたという。
「浦島さんはいつも亀を飲んでるんですか?飲むよりももっと気分が良くなる方法があるんですよ・・・火の部屋でそれが出来るんですが」
イオリはじっと私を見た。
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