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第4話
家に帰るとぼくは、真っ先にベッドに横たわった。
ここは誰もいない。ぼくだけの家だ。
そうして、目を閉じる。
ご飯は食べない。
食べてもいいけれど、食べない。
夜になっても、外にいた老人たちは、家に帰ることなく話し続けている。
日が暮れようとも、日が昇ろうとも関係ないからだ。
ここには、仕事もやるべき家事もない。
何もかもが無限に提供される。
争いだって生まれない。
それが天国だ。
ぼくは小さく目を開けて天井を見る。
暗い暗い天井を。
ぼくはケントに嘘をついた。
ほんとうは少し寂しいのだ。
誰もいない部屋。
誰もいない家。
破る秩序もない場所。
この上なく、寂しくて、空腹感さえも心地よくなる。
その時、コンコンと玄関を叩く音がした。
ぼくは早々と身体を起こして、玄関に向かう。
そして、ゆっくりと扉を開けた。
「やあ」
ケントがいた。
彼は微笑んでいる。
救世主のように見えて、すがり付きたい衝動さえ芽生えた。
それはきっと、ぼくが今までこの部屋に一人でいたからに違いない。
「一緒に鍋をしよう」
ケントはそう言った。片手には材料らしきものがある。
「うん」
ぼくは迷わず、ケントの提案に応じた。
*
招かれたケントはぼくの家に入ると、真っ先に台所に立つ。
そして、料理の準備をし始めた。
とはいえ、湯を沸かして具材を放り込むだけ。
ケントの仕事といえば、野菜を切ることくらいだ。
トントントンという包丁の音が、鼓膜を跳ねた。
そんなケントの後ろ姿を、ぼくは呆然と眺める。
それを母親の幻影に重ねてしまい、思わず泣きそうになった。
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