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第4話

 僕らの練習場所はいつも同じ。校舎の四階、一番奥の空教室。今日も二人で練習していた。 「いよいよ一週間後だね。漫才も仕上がってきてるし、もう少し練習したらバッチリかなぁシンヤ」 「あぁ、そうだな。後悔しないように俺たちの全部、出し切らないとな」  前の舞台からシンヤはずっと元気がない。僕はそれに気付いていた。 「そうだよ。"高校生活の"最後になるんだよ。元気出してシャキっとしないと」  今までシンヤの元気がないことなんて一度もなかった。落ち込むのは僕の役目で励ましてくれるのは彼の仕事だ。 「なんだ? 俺が元気ないように見えるってのか?」  どうみてもカラ元気だ。僕にもっと面白いことが言えれば、シンヤを笑わせることができるんだろうか。 「自分では元気なつもりだったの? それこそお笑いだよ」  シンヤの考えていること、本当は僕もわかっていたんだ。だから今まで何も聞けずにいたんだ。 「ははは」  時間は十九時をまわっている。教室の外はもう暗くなっていて静かだ。シンヤの笑いだけが教室に響いた。 時計の音がコチコチとなっている。 「俺、ルイくんに言わないといけないことがあるんだ」  静寂を切り裂いて口を開いたのはシンヤだ。 「何? シンヤ。まさか愛の告白? なんてね」  また知らないふり。僕は嘘が得意なのかもしれない。 「違ぇ。文化祭が終わった後のことだ。」  それ以上は駄目だ。 「文化祭の後? 打ち上げの話? あっ、そうだ。こないだシンヤがみたいって言ってたお笑いDVD買ったんだ。二人で見ようよ!」 「そうじゃねぇ! いいから黙って聞けよ!」  シンヤが声を荒げた。これも珍しいことだった。僕が舞台で失敗しても怒ったりしなかったのに……。いつもは冷静なシンヤが今日に限っては感情的だった。 そんな風に言われたら、僕はだまりこむしかできないじゃん。 「文化祭の後。進路の話なんだけど。俺……」  やめて! 聞きたくない! 「漫才をやめて、大学に進学したいと思っている」 「……」  聞きたくなかった。 「ルイくんが漫才を続けたいと思っているのは、俺は知っている」 「どうして……」 「君の考えてることなんてお見通しなんだよ。」 「そうじゃないよ! どうしてそんなこと今言うんだよ!」  シンヤの考えていることなんて僕だってお見通しなんだよ。だからこそ、今まで聞かなかったし、見ないふりもできた。 でも、シンヤの口からそれを聞いちゃったら……。 「お、おいおい。泣いてるのかよ。」  シンヤが焦っていた。ここにきてシンヤの新しい顔、大発見だ。 「うるさい!」 「……。悪かったよ。本当はもっと早く言いたかったんだ。でも、言ったらきっと怒るだろうなって」 「怒るに決まってるじゃん! あたりまだろ!」  感情が止められなかった。 「でも、最後だから。最後ってわかってないと、全力出しきれねぇじゃん! 後悔したくないんだよ!」  僕だって後悔したくないよ。でも、だからって、だからって。 「そんなこと急に言われてはいそうですかってなるわけないだろ!シンヤはいつだって自分勝手だよ。コンビを組もうって言ってきた時だって……。僕のことももっと考えてよ!」  自分で言って、辛かった。 「もう帰る。」  僕はそう言って教室を飛び出した。後ろでシンヤが何か言っていたけど、これ以上聞いてやるもんか。

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