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第5話
この一週間はシンヤと口をきかなかった。シンヤはずっと何か言いたげにしてたんだけど、僕が避けてたんだ。だって、何を話したらいいかわからないし、話したらまた泣きそうだったから。
それでも、練習は一人で続けてた。だって練習しないと本当に後悔するでしょ? 色々と考えた末の僕の結論だ。
で、今がその本番直前。隣にはシンヤがいるけど、複雑な顔をしている。僕だって複雑だよ。
「あのよ、ルイくん。その悪かったよ。まだ怒ってるのか?」
今更遅い! 謝るな! 怒ってるよ、当然だろ!
「もう怒ってないよ。僕の方もごめん。君にも考えることがあるのはわかっているし、それに今日は最後の舞台になるんだから。だから楽しもうよ。」
また嘘をついた。だって楽しみたいのは本心だから。怒った心じゃ観客もシンヤも笑ってくれないしね。
「ルイくん、聞いてほしいんだ。俺も一週間色々と考え……」
「やめて! 今から本番なんだから、他のことを考えさせないで!さぁ行くよ。」
シンヤの話を遮って、フライング気味で舞台にとびだした。シンヤも後からついてくる。
『どうもー。シンヤです』
『ルイです』
始まっちゃった。これが最後かぁ。積み重ねてきたものも終わり。考えないようにしていた思いが、やっぱり溢れ出しそうになる。
でもシンヤはさすがだな。舞台の上ではしっかりニコニコしてる。
『我が家の目玉焼きは醤油でしょ!あなた、何言っているの?』
『夫婦か!』
シンヤは今どう思っているんだろう。僕はこの時間が終わらなければいいのにって思っているよ。シンヤは違うのかな?
集中しなきゃいけないのに、シンヤが気になってしょうがない。
『ちなみに味噌汁の具は熱々の豆腐。僕が食べさせてあげる。ふーふー。あーん。』
『夫婦か! じゃなくてふーふーか! わかりづらいわ。てかあーんってやっぱり夫婦じゃねぇか!』
漫才が終わりに近づくにつれて、こらえきれなくなった涙が零れ落ちる。シンヤもそれに気づいていた。
これが終わったら、もう一緒にはいられないんだ。
『もうお義母さんにいいつけてやりますからね』
『夫婦かって! もう君とはやってられないよ!』
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