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お久しぶりです
その時ちょうど、焔緋が朝食が乗ったプレートを2つ持って帰ってきた。
「どうだった?大分苦戦してたね」
「うん、まあね…でも」
「何かあったの?」
不思議そうに目を瞬かせる焔緋に、何でもないってごまかした。
焔緋が作ってくれた朝食を食べながら、ノアさんは何してるんだろう、と心を弾ませた。
「ふーん…」
疑うような目を向ける焔緋は一言、「怜央ちゃんが楽しそうで何より」と微笑んだ。
・・・
焔緋とのアレがあって1週間後。今日はノアさんが海外から帰ってくる。仕事で忙しいノアさんとは、たまに電話したりしていた。学校生活や親のこと、ノアさんになら何でも話せる。
「でさ、キラが女子に振られたって話したらさ…」
「あはは、何それ知らなかった、ん?」
焔緋と学校から帰る途中、自分のスマホが鳴り出した。液晶画面を見ると、『ノアさん』の表示。
「その人…」
「ごめん、今日は寄るとこがあったんだった!じゃあね、焔緋!!」
「あっちょ、怜央っ」
ガシっと腕を掴まれて、びっくりして焔緋を見る。焔緋は何か言いたげに口を開いて、少しだけためらって、
「バイバイのちゅーして」
と言った。
「はっ?」
突然のことに驚いていると、追い打ちをかけるように着信音が鳴る。
「ね、お願い。一人で帰るから」
きゅーんと仔犬のような顔をした焔緋にちょっとだけキュンとする。ダジャレじゃないです。周りは誰もいないのを確かめて、焔緋の肩を掴んでキスをする。同時に頭を固定されて、舌が入ってくる。
「んっァっ…んんっ、ほむら、ぁ」
トントンと肩をたたいてやめさせる。これだけで体が疼くとか、どうかしてる…
「これでいいでしょ、もう行かなきゃ」
「…うん。ありがと、またね」
意外とあっさり引き下がったことに少しだけびっくりする。帰路とは逆の道を早足で歩きながら、慌てて通話ボタンをスライドさせた。
「もしもし、怜央です!もう空港に着きましたか?」
『ああ、先ほど。一人か?』
「はい、さっき友達と、」
その言葉で何かが引っかかる。
…友達、ではないよね、えっちしちゃったし。じゃあセフレ?…ないな。彼氏?…な、ないない!なに彼氏って!僕も男だし、もしそうだとしたらどっちが彼氏でどっちが彼女なんだ…でも焔緋は彼女ってガラじゃないし…身体も大きいし…え、ぼ、僕だってそんなこと無いもんね!
『どうした?』
「あっ、いや、何でもないです!ちょっと考え事してて」
『そうか。今からタクシーでそっちに向かう。待ち合わせは?』
「あ、じゃあいつものカフェで」
『分かった。何でも好きなの食べていろ、どうせまた痩せているんだろうからな』
「そんな事ないです!!」
『はいはい、じゃあ、また後でな。』
「…はい、ではまた」
プツッと電話が切れる。
焔緋に続いてノアさんにまでこんな事言われるなんて…と少しムカッとしながら繁華街の中を歩く。まだ空港にいるって事だし、どこか寄り道でもしようかな。なんてスマホをいじっていると、聞きなれた声がした。
「お、れおっちじゃね?」
「来夢!」
「やっぱそだった〜」
ニカッと白い歯を見せて笑うのは友達の来夢。黒い髪を最近の流行りに乗ってかっこよくアイロンやワックスでキメてる。まあまあイケメンだと思う。
「あれ?サカキいねーの?」
「ちょっと用あってさ。今からちょっとだけ遊べない?」
「珍しいじゃん、付いてこねーとか。ん、バイトまで時間あるからいーよ」
時計をちらりと見てちょっと考えたあと、来夢はOKサインを出した。わいわい話しながら二人でゲームセンターに入る。
「来夢バイトしてたの?まだ中学じゃん」
「あ〜、だいじょぶ!知り合いの惣菜屋の手伝いだけ。お小遣いって事で!」
センセーには言わないで!と手を合わせる来夢に、言わないって笑って返す。
「あ!星の〇ービィじゃん!オレ大好きなんだよ〜!!」
と、ぬいぐるみのあるクレーンゲームのガラスにへばりついた来夢は、早速プレイし始める。
「あ、やばいズレた〜!!」
「待ってまだだって!もうちょい右!!あ、やばっ、あ〜!!」
と、もうちょっとで取れたような星の〇ービィのぬいぐるみを諦め、他のクレーンゲームで大量に取れたお菓子を食べる。人もまばらになってきて、空いていた椅子に座る。「うう、欲しかった…」と本気で悲しそうな顔に笑う。こんなナヨナヨしかったっけこいつ。
「てゆかれおっちの用ってなに?」
もぐもぐリスみたいにお菓子を頬張る来夢はキョトンとした顔で聞いてくる。
「海外に行ってた人に会う約束してるんだ」
「海外!?やべーなれおっちの人脈」
「そんなんじゃないって。なかなか会えなかったから楽しみにしてるんだ〜」
「うげ、それサカキが聞いたら発狂するぜ」
うえ〜と本気で嫌がる素振りをする来夢。
「違いないね」
あははと笑う来夢はスマホを見ると、やべっ!と立ち上がった。
「あ、やべ、もう行かないと」
時計を見ると19時00分過ぎだった。あれから一時間は経っている。
「うん、僕もそろそろ行く」
「変な奴に絡まれんなよ?」
お菓子のゴミをかたづけながらニヤニヤ笑う来夢にコツンと頭を殴る。
「女じゃねー」
「あれ、そだっけ?」
「本気で殴るよ」
「ごめんごめんwじゃ、またな!」
「うん、付き合ってくれてありがと!」
おう!と言葉を返しながらお互い違う方面へ歩き始めた。もう冬だからか、ブレザーの下にカーディガンだけじゃ寒いな…マフラーどこにしまったっけ…
「いらっしゃいませ〜」
待ち合わせのカフェに入ると、ノアさんの姿を探す。何人かが僕のことを見ているけど、何か、お店に入ると見られるってのがあんまり好きじゃない。
「あ」
ノアさんは窓に沿ったテーブルにいた。腕と足を組んで瞑想してる。相変わらず麗しい出で立ちですこと。今日は珍しくメガネをかけているな、と見とれているとフイと顔を上げたノアさんと目があった。何やってるんだ、早く来いと言うように米風のおいでおいでをされる。それを近くの席で見ていた女性グループは、僕とノアさんを交互に見ながらきゃあきゃあと話し始めた。めっちゃ行きづらいんだけど、、、、、、でもここでウジウジしててもな、、、あ〜!!やだぁ〜!!と内心暴れながらもノアさんの向かいの椅子に座る。
「こんばんは、ノアさん。お久しぶりです」
「久しぶり。遅かったな?何かあったのか?」
何故か黒い笑顔のノアさんは頬杖をつきながら僕の頭を撫でる。髪についていたゴミを取ってくれたらしい。
「遅れてすみません。何かってわけじゃないですよ。ただ暇つぶしに友達と遊んでたんです」
「そうか。…やっぱり迎えに行くべきだったな」
「そんな、大袈裟ですよ」
と笑って返すと、どうだかな、とニヤリと笑った。
「ほら」
はい、とメニュー表を渡される。僕は一通り眺めてから、ノアさんと一緒のでいいですと言った。ウェイトレスを呼んで注文を済ませると、ノアさんが「ついでにパンケーキ」と追加した。
「ノアさんパンケーキ好きですよね」
「お前もな」
「ふふ、そうですね。よく昔も作ってもらってましたね」
そうだな、とノアさんは目を伏せて笑った。それによってより長く黒い睫毛が際立つ。
「どうだ、学校は」
母さんの小言を思い出してグっと胸を掴まれる。あれからサボってないけどまあ色々と…
「ま、まあまあですよ」
「愚痴なら聞くぞ」
「いや、愚痴っていうか…やっぱり、僕は」
自分の気持ちに素直になれない情けないやつなんです。ぐ、と両手を握りしめる。変な汗が背中を綴っていった。
「えっと…」
うまく言葉にできなくて頭がごちゃごちゃになる。授業ならすらすら答えられるのに。自分の事になると、僕はてんで使い物にならなくなる。その時、顔にノアさんの手が添えられた。
「顔をあげろ」
「の、あさ…」
グイッと目尻を拭ってくれる。頬に触れる手が冷たくて、思わず手を重ねた。
「手、冷たいですね」
「元からだ」
ですよね、と笑う。この人は吸血鬼だから、元々体温が低いんだ。と、そこにパンケーキとブラックコーヒーが運ばれてきた。あ、しまった。ノアさんが飲んでたのブラックコーヒーだったんだ…僕苦手なのに、ちゃんと聞いとけばよかった。と考えていると、ノアさんがニヤニヤしながらミルクと砂糖の入った容器を僕に差し出した。
「な、僕だってこれくらい飲めます!」
「嘘つけ。ほら、満足するまで入れろ」
バカにされてる気がして、僕は一気にそれを飲み干した。熱い上になんとも言えない苦さが喉を襲う。
「〜〜〜〜〜〜〜っっっ」
「馬鹿だな」
「う、るさいです…」
やっぱり苦い!これだけはいつまで経っても美味しさが分かんない!
これで口直しをすればいい、とパンケーキを差し出される。いちごとクリームがいっぱいのってて美味しそう。
「いただきます」
やっぱりパンケーキ最高…ここのってこんなに美味しかったっけ?ふわふわ…
こっちをじーーっと見ているノアさんに、ちょっとだけいたずら心が芽ばえた。
「ノアさんも食べたいんですか?」ニヤニヤ
「いや、別に。お前を見ているのがいい」
「ぶふっ」
予想の斜め上をきた。『別に』を待ってたのに。そしたら仕方ないですね〜っていじれたのに!!
「一口あげます。どうぞ」
フォークとナイフは一組しかないから、丁度いい大きさに切ってノアさんの口に差し出す。それを何故か驚いた顔をしたノアさんは、ぱちりと瞬きをして口を開いた。
「どうですか?」
「まあまあかな」
「えー、充分美味しいと思いますけど」
素直じゃないな、もう。美味しいって顔してるもん。
ピコン
パンケーキも食べ終わって、ノアさんと他愛ない話をしていた時、LIMEの通知が鳴った。
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