17 / 27
出会い
「ふぅ…きもちかった…」
シャワー室から出て自販機でお茶を買う。休憩用の椅子に座って周りを見回す。たまに車椅子の老人や看護師さんが通るだけで、ものすごく静か。ちょっと怖いな…早く焔緋の所に戻らなきゃ。とお茶を喉に流し込む。
「…?」
ふと視線を感じて振り向くと、小さな男の子が立っていた。子供特有の透き通るような肌の、
きれいな子。パジャマを着ていて、髪が生乾きだった。この子も入院してるのかな。怪我はなさそうだから病気なのかも。
「…お部屋に戻らなくていいの?」
とっくに21時は回っているはずだ。まだ小学校一年生ぐらいの子が、一人で出歩くなんて…
その子は頭をふるふると振って、僕の顔をじっと見つめる。綺麗な青い目。
「おいで。髪拭いてあげる」
こんな時どうしたらいいか分からなくて、一か八かで首に掛けていたタオルを広げておいでおいでする。その男の子はコクンと頷いて僕の膝に乗った。
「君は入院してるの?」
髪をタオルで挟んで水をきる。
「うん」
「お部屋に戻らなくて良いの?」
「ひとりぼっちだからさみしいの…お兄ちゃんは今日から入院するの?」
「え?ううん。大事な人が大怪我しちゃったから、その付き添いなんだ」
「…いいな。ぼくもつきそいほしい」
「いないの?」
「パパもママもおしごとで来れない…一回もきてくれたことないの」
ヘラ、と無理をしたような笑顔を向けるこの子に、胸がギュッとなる。
「お名前、聞いてもいい?」
「うん。むこうだりんたろうっていうの。お兄ちゃんは?」
「僕は怜央・ウィリアムズ。レオでいいよ。よろしくね、りんたろうくん」
「うんっ」
えへへ、と嬉しそうな顔にきゅんとする。かわいい…癒やされる…
「よし、乾いたよ!」
すっかり乾いたりんたろうくんの頭をぽん、と押した。
「れおお兄ちゃん、ありがとう!」
お、お兄ちゃんなんて呼ばれたの初めて…!!
「ううん。お風邪ひいちゃうから、今度からはちゃんと乾かしたほうがいいよ?」
「でも、ぼくひとりでできなくて…」
困ったような、恥ずかしいような、もじもじとするりんたろうくん。そっか、そうだよね。完全に乾かすのには力がいるし。
「わかった。僕、大事な人が退院するまで泊まるから、その間は僕が髪の毛乾かしてあげる」
「ほんとう!?うれしい、ありがとう、お兄ちゃん!」
「ううん、いいよ。りんたろうくんのお部屋の番号は?」
「この階の、三一○号室だよ」
「じゃあ、一緒に行こう?そろそろ寝なくちゃダメだよ」
「で、でも、まだお兄ちゃんとお話したい…ぼく、まだねむくないよ?」
目を見開いて眠くないアピールをする。
ぐっっっ!!!可愛い…僕ももっとりんたろうくんとお話したいよ…!!!でも早く寝ないと体に悪いんだよ…!!
「だーめ。明日またいっぱいお話しよう?」
ね?としゃがんで、りんたろうくんの手を握ってあやす。むぅ、と拗ねたような顔をしたりんたろうくんだけど、約束だよ、と小指を差し出した。
「うん、約束」
指切りげんまんを二人で歌って、手を繋いだままりんたろうくんの病室へと歩き始めた。りんたろうくんの部屋は個室ではなく、カーテンで四つに仕切られていた。通りながら周りのベッドの寝息を聞くと、子供っぽい。友達…じゃないのかな?
りんたろうくんをベッドに寝かせて、おやすみなさい、と言おうとしたとき、ギュッと手を掴まれた。
「りんたろうが眠るまでここにいて…おねがい…」
ちょっとだけ泣きそうな顔をしているりんたろうくんにぎょっとして、もちろん、と頷いて近くのパイプ椅子に座った。しばらく僕の顔を見ていたりんたろうくんは、やがて目を閉じてすうすうと寝息を立て始めた。握っていた手もするりと抜ける。
「おやすみなさい、りんたろうくん」
少しだけはだけていた毛布を掛けなおして、頭を撫でる。病室から静かに出た。
「焔緋…」
部屋に戻ってきて、焔緋のあいた手を握る。
それにしても…
どうして焔緋を狙った?
ずっと引っかかっていた疑問。何が目的で…
ショッピングモールの奴は焔緋に腕を折られたわけだから、焔緋を襲う勇気なんてあるわけ…なくもないか。…復讐?
もしかして…いや、そんなわけない。大丈夫
「おやすみ、焔緋」
静かに額にキスをして、簡易ベッドの中に潜りこんだ。
あとから『何やってんだろ僕』と恥ずかしくなったのは内緒。
ともだちにシェアしよう!