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告白
そうだ、そうだった!!
異界の生物にとって絶大な力を持つ人間の血は、強い匂いを放つ。普通の人には感じない、甘い匂いがするんだって。僕はお祖母ちゃんから受け継いだモノだから多少は力の薄い血だけど、それでも強い。それを体内に入れることによって、匂いが付く。焔緋はちょっとだけ(のはず)しか飲んでないから、まだ薄い(はず)。
けど、匂いに特に敏感な吸血鬼には感じ取られてしまう。例え少ししか体内にないとしても、僕の血(厳密にはお祖母ちゃんから受け継いだ血)が欲しいんだろうな…
自分自身匂いが強いから焔緋の匂いに気が付かなかった…
「はあ……」
「おうウィリアムズ。でかいため息つきやがって!この問題解いてみろ」
「うぇ〜…」
それどころじゃないんだよ、せんせー…
黒板に答えの式を書いていく。正直全然話聞いてなかったから書きながら考える。
「どーですか」
「残念、ここ一つ0が足りなかったな」
「…そーですか…」
「後で職員室来なさい」
「は?それだけで!?」
「は?じゃねえよアホ!いいから昼休み来いな。すっぽかしたら分かってんだろーな?」
「…」
「返事は?」
「はいはい、行けばいーんでしょ」
「お前なぁ…」
「ねーねーねーセンセー授業はーやーくー」
いいところで来夢が助け舟をだしてくれた。僕にウィンクをしてニヤニヤしてる。そのニヤニヤがなかったらもっとカッコよかったよ。その上「お前いっつも寝てるくせして!」とツッコまれている。
僕はまたため息をついて目を閉じた。
「あの、怜央君」
「…んぁ?」
「あの…」
「んー…ふぁあ〜…なに…?」
「あのっ、これっ、昇降口に落ちてたんだけど」
顔を上げると、2つ縛りにしたクラスメイトがいた。ギョッとしたような顔をされる。やべ、よだれついてたかな…口の端を拭ってみても、何もついてなかった。よかった…と安心していると、その子は薄いピンクの手紙を差し出す。
「…手紙?」
「うん、渡すの遅れて、ごめんね」
「あー…いいよ、ありがとう」
「…っ!ううん!」
その封筒を受け取って裏を見る。送り主は書いてナシ。『怜央・ウィリアムズ君へ』と、女の子っぽい小さくて丸い字で書いてあるだけ。
「なになに、れおっちラブレターかよ!」
「今日サカキいねーからだな」
「絶対そーだわ。情報はえーな。早く開けろって!」
「はいはい…」
ハサミで封筒の端っこを切る。
『怜央・ウィリアムズ君へ。
多分話すのは初めてだと思います。急に手紙なんて書いてごめんなさい。今までにも怜央君に手紙を靴箱に入れてたんだけど…気づかなかったのかな?何度も無視されてるのかなって思ってたんだけど、怜央君のせいじゃなかったって知ることができたので、もう大丈夫です。』
は、はぁ…何がいいたいんだこの子。
『今日の放課後、空いてますか?お話したいことがあって…時間があったらでいいので、図書室で待ってます。用件は、王道なので分かってるかもしれないけど…とにかく、待ってます』
待ってますって言われても…
「やっべぇ、やっぱラブレターじゃんかよ」
「カワイイ子かな?」
「ブスでれおっちに告白とかいい度胸じゃん」
「言えてるわ」
「そーゆーこといわないの」
昼休みは先生、放課後には女子からの呼び出しかよ…
そういや焔緋、もう起きたかな?
一応LIMEにメッセージを送る。
『もう起きた?大丈夫?』
その続きを考えていると、すぐに既読がついた。
『大丈夫だよ!!昨日泊まってくれたんだ?俺ちょー嬉しい。退院するまで泊まってくれんでしょ?看護師さんから聞いたよ??いい友達だねって言われたから恋人ですって言っといたよ!夜色んなことできるね怜央ちゃんめっちゃうれしいあの日から一回もしてなくてほんとにつらくて!怜央ちゃんはしたくなんなかった??嘘つかなくていいよ??ねえねえ!!』
はっや!そして長文おっも!!そして変態!!
『はいはい…僕一回家に帰ってから行くから』
『無視された〜…気をつけてね。ホントは一人で帰らせるのも気が狂いそうだけど…怜央ちゃんかわいいから…襲われちゃう…』
『最後の二言いらない』
ケガしてもいつも通りでよかった。変態だけど。
(放課後まで飛ばします)
「よ、れおっち」
「あれ?もう帰ったのかと思った」
最近弛んでると怒られた僕は、放課後に体育館裏を掃き掃除するよう言われた。寒い。ダルい。つまんない。そんなとこに、煌羅 が僕のカバンを持ってきてくれた。
「いや、サカキにれおっち一人にしたら殺すって言われてさー、あいつ怒ったらこえーじゃん?」
はぁ、とこれみよがしにため息をつく煌羅。
「あぁ…」
「ま、そーゆーこと。もう例の子に会った?」
「や、これから向かうとこ。一緒行く?」
「もちろん、当たり前じゃん〜」
ぐへへ楽しみだぜ、となぜか楽しそうな煌羅と一緒に図書室に入る。
僕らを見ていかにもビビった顔をする2、3人の生徒が読書しているだけで、僕を呼び出したっぽい子は見当たらない。
「だりぃな、ウソかよ?」
そう煌羅がボヤいたとき。
「ホントに来てくれたんだっ怜央さまっ!」
「ぅわっ!?」
後ろから甲高い声が聞こえたと思ったら、脇の下から腕が出てきて、抱きしめられる。ゾワッと鳥肌が立って、思わず突き放してしまった。
「ご、めん。びっくりして」
よろけて倒れたその子の手を取って立ち上がらせる。長い茶髪にピンクのマニキュア。ネコ目で気の強そうな子…可愛いって言われればそうかも知れない。化粧してるから。意外と大胆なんだね…しかも『さま』ってなに…?上履きからして同級生だよね君。
「い、いいんですっ!」
恥ずかしそうに本で顔を隠すその子と僕らの間に、微妙な空気が流れる。
「用件ってなに?」
「す、好きなんですっ」
「僕が?」
「はいっ」
「…そーなんだ。ありがとう、でも」
「あ、返事はいいです!分かってるので!」
「あ、そなんだ」
「はい!お話の機会が欲しかっただけなので…!嬉しいです、ありがとうございましたっ!」
その女子はそのまま図書室から出て走っていってしまった。
「…だってさ、煌羅」
「つっまんな…何だあの女…」
「はは、僕も分かんない」
まあいっか、と学校を出る。家まで付いてきてくれた煌羅にお礼を言う。
「わざわざありかと」
「んーや、途中まで道一緒だし。またな!」
「うん!気をつけて」
おう!と歩きながら手を振る煌羅を見送ってから家に入る。
今の時間は17時40分。理不尽な罰を受けたせいで大分時間を食った。はやく用意して行かなきゃ、と玄関のドアを開けた。
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