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焔緋 2
「そんなに僕のどこがいいの」
「全部。何も穢れたこと知りませんって言うような程顔きれいなのにピアス多かったり、頭いいのに自慢しないし、毒吐くけど優しいし、何より中身がキレイ。」
「たまに乱暴な言葉遣いになるけど?」
「それがギャップなんだって。」
「僕は普通の人間じゃないよ」
「分かってる。こんな綺麗な人見たことないもん」
「そういうことじゃなくて…」
「オレは怜央ちゃんがどんなに変でも大好きだよ。初恋は実らないっていう変な概念を破ってやる」
「僕には分からないよ…てかそろそろそこどいて。太陽当たんない。寒くなってきた」
話してる間ずっと日の光が当たらなくて寒くなる。焔緋は厚い生地のカーディガンを着てるけど、僕はベストしか着てないから。
「オレが暖めたげるよ。おいでー」
僕の隣に寝転んだ焔緋の側へ行くまでもなく、後ろから焔緋に抱きしめられる。
「ちゃんとご飯食べてる?」
ごそごそと腹を弄る焔緋の腕をつねる。
へそピアスが掠って、一瞬、焔緋の手が止まる。
「それ、細いって言いたいんだろ」
「…うん。で、食べてるの?」
「…食べてるよ」
たまに面倒で食べないけど、そんな頻繁に食べてないってことはない。多くても2日連続が限界だから(お菓子は食べる。)。
「嘘つくの下手だね。俺にウソついたらお仕置きするよ」
「食べなくたって別にお前にデメリットないじゃん…」
「怜央ちゃんの健康はオレの心の健康なの」
「へぇ〜…」
焔緋もなかなかクサいこと言うね。
と、のんびり日向ぼっこを楽しんでいると、後ろから項を触られる。
「ちょっと、やめて…」
「お仕置きする」
「待って、それ絶対痛いやつ、ぅっ!!」
シャツを捲られて、後ろの項に噛みつかれる。頭打ったときより痛いよ焔緋クン。
…………しかも長い。
ギギギッて言いそうな勢いで噛まれる。焔緋は吸血鬼じゃないから、別に噛まれても何も問題ない。焔緋はそれを知っていて、昔からわざと噛んでるようにしか思えない。オレは吸血鬼じゃないんだからいいじゃん的な。
「ぅ、痛いってば!」
そう言ってもしばらくの間噛みつかれていた。
「…できた」
やっと歯から開放されて、じわぁ…と鬱血した所に血液が流れているような感覚がする。
「それは良うござんしたね…って、何が!?」
「俺の印に決まってるでしょ〜」
「うぇ〜…まじか…まさか、血、出てないよね?」
自分で触ってみると、ズキッと刺すような痛みが走った。手を見ると、少量の血が付いている。
「…ほむら?僕、噛むのはまだ許せるけど血を出すくらいに力込めていいって言ったっけ?」
「ダメって言ってたね」
「…なんでか教えたよね?」
「んーと、怜央ちゃんの血はめっちゃ美味いから、吸血鬼が匂いを辿って怜央に襲いかかる可能性があるんだよね」
「…焔緋は僕がどうなっても良いんだ?」
背を向けてぶっきらぼうに言うと、慌てた様子でまた僕を抱きしめる。
「違うよ!怜央ちゃんの身体にオレの印をつけたかったの!ごめんね怜央ちゃん。痛かったよね?」
「…痛みは慣れたよ。もういいから出てる血を全部拭いて。ティッシュで拭くなら、そのままゴミ箱に入れるんじゃなくてジップロックに入れて…」
「分かった。全部オレが舐める」
「あぁ、そう。…じゃなくて!!やめて!!やめろ!お前にまで匂いがついて勘違いされる!お前、吸血鬼の力ナメて掛かったらダメなんだぞ!」
「ふふ、怜央ちゃん焦りすぎて言葉遣い悪くなってるよ…」
傷口に唇が添えられて、ジュッ、と血を吸われる。
「んっ!」
微かな眠気の靄がかかってくる。身体を丸めて、膝を抱えるような形で声を抑える。
「も、ちょっと。これで最後ね」
「ひっ!ぃっ!んん…ぅあっ…」
いつもより強く吸われて、目の前の靄が濃くなる。やっと離されると、焔緋は僕の体を自分の方に向かせる。寝っ転がっているからか、それとも太陽の日差しがあるからか、妙に眠い。
大方、血を吸われたからなんだけど…
焔緋の筋肉質な腕に頭を乗せて目を瞑る。暖かい…
「怜央ちゃん」
「…ん…?」
「へそピアス、変わってたね。前はダイヤだったのに十字型になってる」
「ん…新しいの、貰ったから…」
「…誰に?女?」
「……」
「怜央、答えろ」
「の、あさん……」
「ノアさん…?」
僕は焔緋の腕の中でついに意識を手放した。
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