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発現
「美味しいね!」
「うん」
学校を抜け出した僕達は、あるショッピングモールのファストフードエリアでたこ焼きを食べている。焔緋が明太マヨで僕がネギがたくさん載ってるやつ。美味しい。
来る途中、やっぱり通行人に訝るように見られた。まあ、白昼堂々制服姿でほっつき歩く奴なんてそうそういないわな。
「ね、怜央ちゃんの1個ちょーだい」
いつの間にか自分の分を食べ終えていた焔緋は、僕のたこ焼きを指差す。
「…足りないの?」
「食べ盛りの男子中学生ナメないでよ?全ッ然足りない!!」
何故かムキになって騒ぐ。
普通にうんって言えないのか、こいつは…
「わかった、全部あげるよ。はいどーぞ」
あと半分残っていたたこ焼きの皿を焔緋の方へ押した。食べたかっただけだから、別にいいや。
「な、何言ってるの怜央ちゃん?そしたら怜央ちゃんが足りないじゃん」
わたわたと焦る焔緋に呆れる。食べたいって言ったり、だめだって言ったり…何なの…
「別にお腹減って死ぬわけじゃないし。早く食べなよ、冷めるよ?」
「…怜央ちゃん、あーんして」
「…あーん」
素直に口を開く。焔緋はたこ焼きを箸で掴むと、半分に割って僕の口に入れた。
「オレが食べさしてあげるね」
「どうしてこうなる、、」
何故か上機嫌な焔緋に、思わず笑みが溢れる。焔緋、お前は一体何がしたいんだよ…
二つ目のたこ焼きをたべさせてもらっていると、焔緋は頬杖をつきながら口を開いた。
「お昼寝のとき、ぎゅってしてくれて嬉しかったな〜」
「ぶふっ!!!」
思わず飲んでいた水を噴き出す。バレてないと思ってたのに…!!
「ごほっ、それは忘れろ!!」
「なんだ、意識あったのにあんなことしちゃったの?え、めっちゃ嬉しい」
「ちがう!」
「違くないの!」
「ちがうってば!」
「違くねーってば!」
しばらく攻防戦をしていると、男の人が近づいてきた。黒いコートを着てるからか、背がとても高く見える。マスクをしていて顔はよく見えない。
「ちょっと…」
「すみません、オレ達うるさかったですよね」
僕に話しかけようと、男の人が口を開けると焔緋がすかさず反応する。席を立って、僕を見せないように前に立つ。僕も席を立って焔緋の後ろから覗く。
「いや、そうじゃなくて…」
困ったように口ごもる男の人。なんだか可哀想になって、顔だけを覗かせて話しかける。
「僕に何か用ですか?」
「ちょっと、怜央」
焔緋の怒ったような声を無視して、男の人を見つめる。その人はそれを待っていたかのように、一瞬のうちに僕の隣に移動し、腕を掴まれる。
「ちょ、なに…」
「君、いい匂いするね。ただの人間じゃないよね?大人しくしてくれたらこのお友達は殺さないであげるからちょっと来て」
吸血鬼…!!!
「何を言って…僕、普通の…」
「匂いでバレバレだって!大丈夫だよ、ただ良い事するだけじゃん、ね」
ボソリと耳元で呟かれる。周りには家族連れの
親子がこちらを伺っている。揉め事は起こしたくないな…
「ほんと、勘弁してください…」
「キレイな顔してるし、痛いことしないからさっ、」
「お前、ふざけんなよ」
キレた焔緋が男の手を捻りあげる。そのままゴキッて嫌な音がして、男はがっ!とか意味のわからないうめき声を出して、座りこんだ。
「今後怜央に近づくな。触れるな。破ったら殺す。分かったな?」
「ぐっ…は、はい…」
焔緋は男のその返事を聞いてもう一度睨むと、焔緋は僕の手を引いてトイレの一室へと連れ込んだ。
「焔緋…」
「大丈夫だよ、怜央」
カタカタと震える手に気がついていたのか、僕を抱きしめる。あんな至近距離で、血を吸われるのかと思ったら鳥肌が立った。
「怖かったっ…」
思わず焔緋の背中に手を回す。本当に怖かった。今まであんなに攻める吸血鬼はいなかった。
「もう大丈夫だよ。怜央、顔上げて」
「ん」
「怜央から声かけてどうするの?最近無防備すぎだよ」
「そかな?ごめん…」
「これからはダメだからな」
「うん」
心配そうな怒ったような顔で見下ろされて、涙が出てくる。
「泣かないで。これからもちゃんと怜央を守ってあげるから」
頭を撫でてくれる手が熱い。まだ怖くて、焔緋の項に頭を預けて抱きついた。
そのまましばらく震えが収まるまで抱きしめ、頭をなでてもらっていた。
「そろそろ帰ろ?オレんちおいで」
「でも、家の人に迷惑…」
「昔からずっと泊まりに来てるだろ。どっちも残業だし気にしなくていいよ。とりあえず帰ってゆっくりしよ」
「ありがとう…」
「気にしないで」
焔緋は僕の手を握ると、そのままショッピングモールの外へ出て、家までずっとそのままだった。通行人にチラチラ見られたけど、そんな事は気にならなかった。
ただ、焔緋が頼もしく見えた。
(あ、たこ焼きわすれてた、、、、)
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