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潜入?

「あかりちゃん、指名です」 「はーい♪」 意識して、若干、高い声で答える。 俺が「あかり」としてこの店に潜入してから2ヶ月が経過していた。 店内は、シャンデリアや着飾った女の子で煌めいている。 ここは、いわゆる高級キャバクラ。 あっさりと採用されたから、誰でも即採用な店だと思ったら、かなりの狭き門だったらしい。 女装を見破られず、無事に採用された俺に、タローもユウジも目を真ん丸にして驚いた。 大丈夫って太鼓判を押しながら、採用されるってこれっぽっちも思っていなかったことに、こっちがビックリだ。 なんて、いい加減な人なんだ。 それにしても、キャバクラって、若さだけが取り柄の女の子が客と楽しくお話をするところって思っていたが、大間違い。 それなりの客がやってくるので、新聞に目を通して時事ネタも話せなくちゃならないし、気分よく過ごしてもらうためのさりげないおもてなしテクニックも必要。 ほんと、大変な世界。 そんな大変な世界に、同僚にすら女装に気付かれずに馴染んでいる俺。 売上も順調に伸ばし、今月はナンバー3にまでのぼりつめた。 肝心の依頼の方はというと、十分な調査も出来ないまま約束の1週間が過ぎ、結局、引き受けることになってしまった。 「あかりです。ご指名、ありがとうございます」 指名されたテーブルに行くと、ターゲットの豊日が座っていた。 坊っちゃん、今日もカッコいいぜ!! 上品な整った顔に、洗練された仕草。 この世の汚い場所とは無縁に育ったことが一目でわかる、生まれながらの 「THE坊っちゃん」。 後輩をレイプするように思えないんだよな。 依頼人の話は、本当なのか? 坊っちゃんのテーブルにつくのは、今日で5回目。 アフターに連れ出すのが今日の目標だ。 「あかりちゃん! 会いたかったよ~!」 そういって、キスでもしそうな勢いで腕をつかんでのは、坊っちゃん……ではなく、その友達のバカぼん。 こいつは、絵に描いたようなバカ息子。 親は日本有数の不動産王でいくつもの会社を経営しているやり手らしいが、本人は名ばかりの取締役で毎日遊び歩いているだけのペラッペラの頭も行動も考えなしのおバカさん。 心配で仕方ないだろうと、見たこともないこいつの親に同情してしまうほど。 同じぼんぼんでも、大違い。 こっちは、正真正銘の「バカぼん」だ。 坊っちゃんとバカぼんは幼稚舎からの幼馴染らしく、その腐れ縁は切れることなく、今もことあるごとにつるんでる。 「あー、そうっすか。そりゃ、よかったっす」 「そんなつれないこと言わないの。あかりちゃんは可愛いなぁ」 全くなびかず冷たい態度の俺に闘志を燃やしたのか、バカぼんは、ほぼ毎日、店にやってくる。 そして、懲りずに口説く。 心の底から、ウザイ。 お前と話すのは、坊っちゃんのことを探るためだからっ! 何度も喉元まででかかる言葉を今日も飲み込む。 「豊日さん、ようこそいらっしゃいました。あかり、会いたかったです」 バカぼんは無視して、坊っちゃんだけに話しかける。 「あかりちゃん、ひどーい。でも、わかってるから。こいつを当て馬にするつもりだろ? ウッシッシ」 違うし、バーカ。 「あかりちゃん、そうなの?」 「あら? そんな経験おありですか? 二人はずっと同じ学校だったのですよね。例えば、高校の頃ってどうでした?」 ナイス、俺! バカぼんを利用して、高校時代の話へ誘導! このまま、レイプ事件の真相を聞き出すぞ! 「こいつは、確かに王子さまって騒がれたけれど、根性なしでね。彼女も作れずに、童貞のまま卒業。俺の方が彼女もいっぱいいたし、経験も豊富だから」 やっぱり、バカ。 節操なしのユルい男より、童貞の王子の方がいいに決まってる。 きっと、俺と同じように初めては好きな人とって決めてるんだ。 なんて、いいやつ。 ん?? 待てよ。 童貞っていったよね?? 坊っちゃんは、依頼人をレイプしたんじゃねーのかよ? バカぼんが知らないだけ? 「あれ? あかりちゃん、期待してる?? この後、アフターで天国見せてあげるよ?」 俺の沈黙を都合よく曲解して、バカぼんはスケベな笑みを浮かべた。 そして、股の間に手を伸ばす。 キモいことすんなっ! 反射的に叩き落とそうとした俺の手より一瞬早く、誰かがバカぼんの手を掴んだ。 坊っちゃんだ。 「嫌がってるじゃないか。やめてあげなよ」 「はぁ? 邪魔するな。あ、ひょっとしてお前も混じりたいの? あの時みたいに、3Pする?」 「あの時?」 「高校の時に、3Pするはずが、こいつ勃たなくて出来なかったんだよ」 それって…… 「このまま、アフター行くぞ」 バカぼんは、俺の手を掴んで立ち上がった。 「お前も来い! あの時の続きをしようぜ」 「わかった」 えー、「わかった」なの?? 止めないの??? 俺、男なんですけどっ!! ヤバい、ピンチ! バカぼんは、すごい力で俺の手を締め上げ、そのまま引きずるようにタクシーに押し込んだ。 両脇をバカぼんと坊っちゃんが固める。 ちょ、ちょっと待って!!!!!! 俺の心の叫びもむなしく、タクシーは3Pできるホテルへと走り出した。

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