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依頼人の恋

家を飛び出したものの、行き詰まっていた。 前回、あんなに訊ねても依頼人は全く口を割らなかった。 正攻法では、教えてくれるはずはない。 でも、手がかりは依頼人だけ。 さて、どうするか? 電車とバス、そこからさらに徒歩で7分のところに「スーパーみつや」はあった。 正面に記載された店名は剥げ落ち、きっと知らない人なら読み取れない。 ワンフロアだけの小さなスーパー。 壁には、「パート募集 時給780円」と色の変わった手書きのチラシが貼ってある。 俺は、買い物かごを取り上げ、奥に向かった。 ちょうど、混雑する時間なのか、思いのほか、店内は込み合っている。 そこには、店名の入った趣味の悪いハッピを身にまとった依頼人がいた。 ペットボトルの飲料を段ボールから陳列台に並べている。 依頼人のバイト先はあらかじめ調べていた。 スーパーの裏方。 もっと、お洒落なカフェや都会のお店が似合いそうなのに、こんな地味な力仕事。 しかも、時給も安いし、自宅とも学校とも離れた不便な場所だ。 清楚系美少年に似合わない。 全く、腑に落ちない。 「頑張ってるな」 「あ、みっちゃん、あっ違った、店長だった」 「はは、いいよ、みっちゃんで。いつもありがとう」 「そんな、お礼なんて」 依頼人は頬を薔薇色に染め、はにかんだ微笑みを浮かべた。 相手は20代後半のまあまあ整った顔つきの爽やかな体育会系。 店長というだけあって、仕事が出来そうなタイプ。 既視感と思ったら、いかにも少女マンガにありそうなシチュエーションだ。 キラリと白い歯が光る大人の爽やかイケメンに、頬を染める清楚系美少女。 ま、今回は美少女じゃなくて美少年だけど。 なるほど、なるほど。 そういう理由ね。 俺は、顎に手をやり、したり顔で頷いた。 君のバイトの目的はラブですなー。 青春ですなー。 …………はて? ユウジのチンコとどこで繋がるんだ? この依頼人が店長のチンコ以外は興味ないだろうってことは、態度でわかる。 気持ちがだだ漏れだし。 それが、どこでどうなって、あんな依頼に? 深まる謎。 とりあえず、手掛かりは店長か。 場所を変えながら観察を続け、店長が出てくるのを待った。 そのまま、あとをつける。 すると、店長は寄り道もせずに、すぐ隣のマンションの中に入っていった。 いきなりピンポンしても不審者だしな。 これからどうするか? マンションのエントランスで悩んでいると自宅に戻ったはずの店長がエレベーターから降りてきた。 ヤベー 慌てて身を隠そうにも場所がない。 店長は、まっすぐに俺のところに向かってきた。 「君、店からずっと僕のことをつけていたよね?」 げ、バレてるし。 「き、き、気のせいじゃ? 偶然ってすごいですね。奇遇だな。は、は、は、運命だな」 苦しい。 自分でもわかってる。苦しすぎる言い訳だって! なんとか、誤魔化されてくれー! 「困るんだよね」 はぁと、店長は、ため息をつきながらさらさらの前髪をかきあげた。 「告白なら無駄だから」 「はぁ?」 「だから、僕に惚れてストーカーしてるんでしょ?」 「はぁ?」 「だ、か、ら、バレてるから誤魔化さなくてもいいよ。あのね、君の気持ちには答えてあげれない」 「はぁ」 さっきから「はぁ」しか言ってない俺を相手に、店長の言葉は続く。 えっと、この会話、どこに向かってるの…… 「昔から、誤解されるんだ。君みたいな人が多くて」 「はぁ」 「ネコだから」 「はぁ?」 「僕は、ネコだからタチしか付き合えない」 「はぁ??」 「しかもね、理想が高くてね、君みたいな粗チンとは付き合えないんだ」 「はぁ???????」 何気に酷くない? こいつ。 見たこともない俺のチンコを決めつけるな!っつーの!! 「ほら? これが僕の理想。これ以上じゃないと付き合わないから。よく、いるんだよね……じゃあ、タチになりますって粗チンのくせに無理に転換する子。それって最悪だから。でもね、大きすぎてもダメだから。よくいるのよね、勘違いしてるヤツ、だってさ……」 微妙におねぇな言葉づかいになってる店長の言葉は途中から聞こえてなかった。 それよりも、手に握られているものに釘付けだったから。 手に握られているもの……それは…… 「……キングオブTHEチンコ……」 やっと、依頼人とユウジのチンコが繋がる。 「あら、わかってるじゃない? このディルドが理想よ! この形、弾力、固さ、全てが理想よ! これについてなら、一日中語ることが出来るわよ!」 店長の手に握られていたのは、ユウジのチンコだった。

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