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店長のチンコ
エントランスだと人目があるということで、店長の部屋に場所を移した。
そこで、チンコについて続きを語られる。
店長の握りしめているチンコ……ディルドは、【実録シリーズ 4弾】という名前の製品らしい。
実際の男根を鋳型にして細部まで忠実に再現したそれは、知る人ぞ知る人気シリーズで、今は11弾が発売中とか。
「私にとって、この4弾が理想ってわかっているのに、ついつい発売のたびに買っちゃうのよね。それでガッカリしちゃう」
すっかり、警戒心が薄れて気を許したせいか、はたまた自室に戻ったせいか、店長の言葉づかいは、『僕』から『私』に変化している。
「店長、恋人はいないの? モテるでしょ?」
「それが全然なのよね。寄ってくるのは可愛がられたいネコばっかりで。私だって甘えたいのに……包容力があって好みの男は、みんな可愛いのを求めてて……だからあんたみたいなキラキラした子猫ちゃんは嫌いよっ!」
「はぁ、俺、ネコじゃないし」
「えっ? タチなの」
「やー、タチでもないかな……」
「ふんっ! なによそれっ!」
どうだろ?
入れるより、入れられる派なのかな?
いや、入れたいな。これは男の本能?
でも、具体的に誰かに入れるとなったら、自分にそんなことが出来る気がしない。
だからといって、誰かが自分の中に入れるのは怖いから嫌だし。
うーん。
童貞で処女の俺には、正直、自分がどっちかわからない。
てゆーか、セックスできる気がしない。
そうだよ、やっぱり、本当に愛する人じゃないと出来ないんだよ。俺は。
うんうん、それそれ。
愛する人だったら、きっと、どっちでも出来るはず!
「店長さ、誰かを本気で好きになったことある?」
「なによ、いきなりっ! 私だってちゃんと恋愛したいわよ! でも、いつも一方通行で実らないんだから仕方がないでしょっ!! 私は、この子と一生添い遂げるからいいのよ!」
店長は、いとおしそうに手の中のディルドに頬擦りした。
「でもさ、それは店長を愛せないよ。だってモノだもん。結局は、それも今までといっしょで店長の一方通行ってことじゃん」
「ま、なんて嫌なことをいう子猫なの! やっぱり、あんたみたいな恋人を作るのに苦労しない子は嫌いよ!」
いや、俺だって、年齢=恋人いない歴なんだけど。
「これから誰にも愛されずに生きていくのはつらいよ? この際、タチとかネコとかこだわらずに自分のことを愛してくれる人と付き合ったら?」
「そんなの出来ないわよ! だって、みんな表面を取り繕った偽者の私をみて告ってくるんだもん。私だってこんな本性を誰にもさらせないし。ありのままになれないの。つい、頼れるお兄さんを演じてしまう」
さっきから、めちゃくちゃありのままの姿をさらしていると思われる店長は、その場に崩れ落ちた。
「孤独よ、孤独。ずっと1人で生きていくのよーヨヨヨ」
とうとう、大声をあげて泣き始めた。
どうしたら、いいんだ?
収拾のつかない事態に困り果てる。
このまま、置いて帰っていい?
そこに、ピーンポーンとチャイムの音。
良かった! 救いの神!
「みっちゃん? 僕です。ちょっといいですか?」
ちがう、神じゃない……
インターホンのカメラに映し出されたのは依頼人だった。
鼻をすすりながら店長がやってくる。
「どうした? いいよ。そのまま、上がっておいで」
カチャリときった後に、俺を振り返る。
「人が来るから、もう帰ってくれ」
言葉づかいが戻ってる。
さすが。
って感心してる場合じゃない。
早くここをでなくちゃ。
顔ばれしてるし、姿を見られる訳にいかない。
でも、依頼人の事情を知る折角のチャンス。
「今のは誰?」
「昔、家庭教師をしてた教え子で、今は、うちにバイトに来てる」
「何の用事かな?」
「進路の相談か? 今日、チラッと模試の結果が戻ってきたって言ってたし。今でも時々勉強みてあげてるから」
カチャリと玄関の扉が開く音。
しまった、帰るのが遅れたっ!!
「あの、今から一緒に行ってもらいたいところがあって」
言葉の途中で訝しげに俺を見上げる。
「あなた、なぜ、ここに?」
「えっと、なんでだろうな、あははは」
あー、またもやうまい誤魔化しが思い浮かばず、怪しさこの上ない。
「ちょうどよかった。今からみっちゃんとあなた達のところに向かうところだったんです」
「え?」
「みっちゃん。それの持ち主に会わしてあげる」
みんなの目線が店長の握りしめたチンコに集まる。
ギャー!
この世のものと思えない、すごい悲鳴とともに、店長は握っていたディルドを放り投げた。
「今さら隠さなくても知ってるから。みっちゃんの理想なんでしょ? プロにお願いしてその持ち主に会えることになったから。さあ、出発するよ?」
「ちょっと、なんだよ? どういうこと? 連絡って誰から? うちから?」
「うん。今から依頼を実行するから、確認にこいって」
「はぁ???」
なんだよ、それ!!
寝るなって言っといたのに!!
怒りのあまり、頭がクラクラする。
「みっちゃん、行くよ」
「あ、待って」
「ほら」
「あ」
依頼人は、座り込んだ店長の腕をつかむと強引に立ち上がらせた。
ショックのあまり半分本性がでかかってる店長と、今までの可憐さがすっかりなくなり荒んだ雰囲気の依頼人とともに、俺はユウジとタローのもとに向かった。
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