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次の依頼人は?

「自転車は、そこに置いて、この車に乗りなさい」 刑事の口調は、犯人に対するような威圧的なものに変化している。 「こ、ここに置いておくと迷惑になるし、危ないし、また、取りに来るのが面倒だし」 「早く、乗りなさい」 「うわぁ」 無理やりセダンに押し込められる。 刑事は、運転席に座り、窓をあけてパカリと赤色灯を取り付けた。 発進と同時にウウーーンとサイレンが鳴り響く。 ひぇーーー この車、覆面パトカーだったんだ。 生まれて初めて乗ったぜーー!って喜んでいる場合じゃない。 どうする!!! いろいろ考えを巡らせたところで、目と鼻の先の距離。 げ、もう、門についちゃった…… あっと言う間に、到着。 そりゃそうだ。 だって、自転車で5分もかかってない地点だったし。 車は門の前に横付けされた。 サイレンは鳴りやみ、静けさが戻る。 こうなれば、さっきのサイレンに気付いて逃げていることを祈るのみ。 逃げて、逃げて!! タローとユウジ、二人とも逃げてて!! 目を閉じ、眉間を人差し指でグリグリしながら、あるはずのないテレパシーを全力で二人に送る。 に、げ、ろ!! 「おかえり!」 へ? そこには、タローの姿。 はい? お出迎え? 一度もしてくれたことないのに! 俺の必死に送ったテレパシーは、もちろん届くはずもなく、タローは、にこやかに後部座席の扉をあけた。 「おかえり。自転車はどうした?」 「そんなことより、早く、逃げてー! 刑事だよ、この人!」 車から飛び降り、タローの手を引いて走り出す。 目指すは山の中。 あそこなら、車は入ってこれない。 「大丈夫、逃げる必要はない」 タローの足が止まる。 「なんで? あの人、タローさんを捕まえにきたんだよ!」 刑事が背後に近づいてくる。 「元気そうだな、タロー? このカワイコちゃんは恋人か?」 「はぁ、その発想……相変わらずだな、お前は」 「宗旨替え?」 「お前な……」 はい? 知り合い? タローがやってられないぜというように降参のポーズをすると、刑事はあははと笑いながらタローに肩を回した。 めっちゃ、親しそうなんですけど? それに、なんだかスキンシップが激しいような…… 「緊急時でもないのにサイレンを鳴らすな。始末書ものだぞ?」 「逮捕されるって、びびったか?」 「そんなことするのお前だけだ。だから、こうやってお出迎えにきてやったんだろ?」 二人だけの会話は続く。 ちょっと、お二人さん? 俺の存在忘れてない? そのまま、慣れた足取りで玄関にあがる。 奥からユウジが出てくる。 「あ、森さん、いらっしゃい」 「ユウジ、相変わらずチャラいな。その髪型やめろよ」 「うるさいよ? そんな意地悪いうなら、引き受けないよ? どうせ依頼でしょ?」 「今度はかなり手強いヤツでな」 「資料、もってきた?」 抱きつくように肩を回した状態(歩きにくくないの?)の刑事とタロー、そしてユウジはわいわいと話ながらリビングに入ってしまった。 えっと、今、依頼って言ってたよね??? 聞き間違い? 「おーい、次の依頼の話をするから早くこっちにおいで?」 ユウジの声がドアの向こうから響く。 やっぱり、依頼? ええ!!!!! 次の依頼人は刑事ってこと??? 森という、妙にタローに馴れ馴れしい刑事の態度に首をひねりつつも、俺は慌ててリビングに駆け込んだ。

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