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[5]依頼人はキモヲタで拗らせ最低男?
「依頼人に会いに行くよ~! 出掛ける準備して?」
ユウジが玄関で声を張り上げた。
げ、今?
ちぇっ、それなら、もっと早く言ってよ!
俺は、急いで手についた小麦粉を洗い落とし、エプロンをはずした。
「で、どんな人なの?」
「うーん、会えばわかる」
てか、会う前に知りたいから聞いてるんだけど?
ま、いいけどね。
俺はチラリと隣のユウジを見上げながら、この前から聞きたかった質問をした。
「あのさ、ユウジさんはタローさんとどんな知り合いだったの? 歳も10才くらい違うし、そもそも刑事と商社マンって世界が全然違うよね?」
友達って感じでもないし、かといって単なる仕事仲間っていうには二人の距離は近い。
チャラいユウジにストイックなタロー。
共通点が全くないのに、互いに深い信頼を寄せていて、揺るぎない絆がある。
二人がどんな経緯で強姦屋をすることになったのか気になる。
タローに信念があったように、ユウジには何があるのだろうか。
「気になる? やっぱり、惚れた人の事って何でも知りたくなるよね? うん、うん、わかる」
「はあ? 何回も言ってるけど、ユウジさんに惚れてないから」
この人、ホントにしつこい。
すっかり、お約束となったやりとりを繰り返す。
はぁ、こうやって、上手くはぐらかされるんだよね。
ユウジは、ひょうひょうとしていて本音をみせない。
タローには俺とは違う顔を見せているんだろうと思うと、堪らなく悔しい。
「ほれ、この店だよ」
ユウジの運転する車はファミレスの駐車場で停まった。
今度の依頼人には、どんな事情があるのだろうか?
店内は、ガラガラ。
奥に男の人が1人いるだけ。
「ちょっと? テーブル汚れてるしちゃんと拭いて? それで注文遅くない? 空いてるんだから、さっさと持ってこいよっ! 土下座してもらうよ!」
男は、貧乏揺すりをしながらイライラと店員を怒鳴った。
ボサボサの髪に今時、売っているところを探すのが難しい瓶底眼鏡。
スーツはよれよれで、ネクタイは曲がっている。
爽やかな朝なのに、深夜残業の帰りのような疲れきった雰囲気が漂っている。
そばに寄るだけで、負のオーラが移りそう。
「依頼人は、まだ来ていないみたいだね」
「げ、15分前なのに、もう待ってる」
え、ひょとして……まさか?
あんな人がねぇ?
「お待たせしました。メールで連絡を受けた者です」
ユウジは、男の前の席に座った。
仕方なしに、俺もユウジの隣に座る。
「あんたが強姦屋? 依頼人を待たせるなんて最低だね。遅れた分、値引きしてもらうからね」
あれ? さっき、15分前って……
依頼人の小言は、やむ気配はない。
それどころか、ますますヒートアップしているようだ。
「何? その髪型。チャラいね? ちゃんと仕事できるの? 金だけ取ってバックレるんじゃないの?」
うわ、面倒くさそうなヤツ。
「ユウジさん、もう、帰ろう?」
テーブルの下で、ユウジの袖を引っ張る。
触らぬ神に祟りなし。
こんな依頼はトラブルの元。
逃げるが勝ちだ。
「依頼内容を検討しました。その結果、お引き受けすることにしました」
げげ、マジでーーー!
ないわ、ホントにないって!
あり得ないって!
にこりと微笑むユウジに、俺の顔面は蒼白になった。
絶対にありえねぇーーー!
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