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お礼
二日後の夜。
暑くて眠れない夜から解放されて、布団の中でぬくぬくと眠っていた。
離れの扉の向こうで、誰かの足音が聞こえた。
碧人は目だけを開けて、体は動かさなかった。
扉の前に人の気配を感じる。
パラパラと何か細かい物を置いたような音。
(何だろう…?)
不思議と怖いと思わなかった。
いつの間にか寝てしまったらしい。
文机の近くの格子窓からは太陽の光が差し込んでいる。
「碧人さん、ご飯ですよ」
使用人の安江 が朝食を持ってきた。扉を開けようとすると、「あら?」と不思議そうな声をあげた。碧人が扉を開けると、その近くに小さな木の実が落ちている。
「まぁ、かわいい木の実ねぇ」
「本当だ」
碧人は木の実を拾い上げ、文机の上に置いた。
(もしかして、夜の…)
誰がこんな可愛いことをしてくれたんだろうと碧人はクスクスと笑った。
贈り物は続いた。
木の実のときもあれば、野菜や魚の時もあった。しかし、一番嬉しかったのは小さな花だった。もともと碧人は花が好きだった。
綺麗な花を見ていると、寂しい心が癒された。
床の間に飾ったり、安江に頼んで花器を持ってきてもらい、部屋に飾った。
「碧人さん、何かよっぽど良いことをしたのねぇ。毎日贈り物をくれるなんて」
安江は笑っていたが、詳しくは聞いてはこなかった。安江のこういうところが碧人は好きだった。父様に知れたら、「何か変なことしてないだろうな!大人しくしていろ!」と雷が落ちてきそうだ。
「良いことをした」といえば、やはりあの黒い狼を助けたことだろうか。
(狼がこんなことをするのだろうか…?)
碧人は今晩、正体を見てみようと思った。
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