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嫉妬

「こんな田舎では人も寄ってこない!もう静かに野菜を育てるだけでもいいではないか!」 屋敷では碧人の父・良成が大声をあげた。 「良成さんは、臆病すぎる。田舎には土地があるじゃないか!あの森を潰して、平地にし、ゴルフ場を作るんだよ!そしたら、ホテルや旅館も建てられるし、雇用も増える!」 「駄目だ!あの森に手を出してはならん!」 その怒号は碧人の離れまで聞こえてきた。 碧人はまた始まったと思った。 「碧人さん、夕御飯ですよ」 安江はお膳を碧人の前に出した。 「また喧嘩してるんだ…あの二人」 「ええ…もう静かに過ごしたいんですけどねぇ」 「森を潰すって…本気なのかな?」 「良成様が止めてますし、大丈夫でしょう」 碧人は森というより、要のことが心配だった。要はあの森に棲んでいる。もし潰されたりしたら、住む場所がなくなってしまう。 碧人は夕御飯をぼちぼちと食べ始めた。 「碧人」 扉を叩く音と低い優しい声が聞こえた。 「要、こんばんは」 碧人は扉を開けて、要を迎え入れる。 「碧人、これ」 要は碧人は小さな黄色の花を渡した。 「可愛い花だね。ありがとう」 この何気ない逢瀬が碧人にとっての癒しだった。 家の事も、病気のことも何もかも忘れられた。 「碧人、少し元気ない」 「え、そんなことないよ」 「元気を出すにはどうしたらいい?」 「え?」 要は碧人と向かい合わせになり、顔を碧人の肩に寄せた。時々要は犬のような仕草をする。 柔らかい黒髪が、碧人の頬に触れる。 「ふふっ、くすぐったい」 「碧人、これ好き?」 ぐりぐりと顔をさらに押し付ける。 「あっ、ちょっと要、やり過ぎ…っわわ!」 弾みで転けそうになったが、衝撃はいつまでたっても来なかった。 要が碧人を支え、横抱きのような形になっていた。 「要、下ろして…っ!」 「碧人、赤くなってる」 「だって、女の子みたいだし…僕、男なのにこんなに軽々支えられるの、なんか恥ずかしい…」 碧人は両手で赤くなった顔を隠す。 「…?重い方がいい?」 「いや、そうじゃなくて」 「重くても軽くても、碧人のことが好き」 要は真顔で碧人の耳元でささやいた。 「か、要…それ、他の人に言っちゃ駄目だよ…?」 「??碧人にしか言わない…碧人しか好きじゃない」 要は全く自分の言動が恥ずかしくないようだった。ただ、それが碧人自身に向けられた純粋な愛情なのだと知って、碧人は何故か安心した。 もし、他の人に要が愛を囁いていたら…碧人の心の中はモヤモヤとしたものが渦巻いた。

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