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事件

要との逢瀬も重ね、碧人は要に対して恋をしているのだと自覚し始めた。 要は人狼で、碧人は人間…。恋愛には障害が付き物なんて言うけれど、これはあまりに高い壁だ。 (今のうちに離れた方がいいのだろうか…) 碧人は思い悩んでいた。 9月15日の昼頃、またもや伯父がやって来て、中庭でゴルフのクラブをブンブン振っていた。 そして、すぐ傍にはまたもや村田がこそこそと伯父と話していた。 碧人はそっとその様子を見ていたが、話しかけられるのが嫌で、すぐに離れに引っ込んだ。 まさか、この時二人が恐ろしい計画を話しているとは、碧人は夢にも思わなかった。 今夜は満月だった。 今日は夕御飯を食べたあと、とても眠たくて、布団に入った。 碧人は要が来たらどうしようと思っていたが、睡魔に襲われ、眠った。 どれくらい眠ったのか、がさごそと物音が聞こえたため、目を開ける。 人影が見えたため、要が来たのかと碧人は思った。 体を起こそうにも、だるくて起きられない。 人影は碧人に近づいてくる。 だんだんそれが、誰なのかはっきり見えてきた。 (え…?何で…) その人物は、碧人の上に乗ってきたのである。 「坊っちゃん…」 使用人の村田だった。 嫌らしい手つきで、碧人の頬を撫でると首筋を撫で、胸元に手を入れてきた。 「…っひ!」 碧人は小さく悲鳴をあげた。 「おや、坊っちゃん起きてたんですか?薬があまり効かなかったのか?」 「薬ってどういう…」 「坊っちゃんは気の毒な人だなぁ…こんな金持ちのところに生まれたばっかりに、あの方に命まで狙われて」 何を言っているのだろう。 あの方?命? 村田は自分を殺しにきたのだろうか。 そう考えると、恐怖で余計に動けなくなった。 「でも、大丈夫。あっしは坊っちゃんを殺しやしません。ただ…」 村田は碧人の胸の突起をぎゅっと摘まんだ。 「…っあぁ…!」 碧人は思わず声を漏らした。 「おお、いい声で鳴くなぁ…坊っちゃん、俺はあんたのことを昔っから、犯したくて犯したくて、堪らなかったんだ…。誘拐して、山奥の納屋に着いたら、もっと気持ちよくしてやるよ…」 想像するだけで、身震いがした。 「坊っちゃん…お前を飼い殺しにしてやるよぉ…!」 恐ろしい笑みで、村田は懐から取り出した縄で碧人を縛ろうとした。 「いや…やだぁ…要…要、助けてぇ!!」 碧人は無我夢中で、要の名前を叫んだ。 すると、ドンという大きな音をすると、自分の体の上から重さがなくなった。 ゆっくり目を開けると、そこには右手を血まみれにした要が立っていた。 村田は切られたのか、肩口から血がドバドバと出しながら、倒れている。まだ、息はあるらしく、うぅ…と呻きながらぴくぴくと動いている。 「碧人!」 要は左腕で碧人を抱き起こした。 「要…かな、め…怖かった…怖かったよぉ…」 碧人は要の胸に顔を押し付け、泣きじゃくった。 「遅くなってすまなかった…」 要はぎゅっと碧人を抱き締めた。そして、何かを感じ取ったように後ろを振り返った。 「碧人、誰か来る。逃げるぞ」 要は碧人を右腕でひょいと抱えると、扉からすごい早さで中庭を走り、塀を飛び越え、森に向かった。 中庭を走り去る際、碧人はチラリと中庭の辺りに人影を見た。 それは立派なスーツを着た伯父だった。 あぁ…やっぱり、伯父が村田を差し向けたのだ。 この家には、誰も味方がいないのだと確信した。

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