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新しい生活
白眉丸の計らいで、東北の森で碧人たちは暮らすことになった。
初めは、要が碧人を乗せて東北まで行く予定だったが、白眉丸が車に乗せてくれるとのことだったので、便乗することになった。
赤い牛車で、中はなかなか広い。白眉丸は「嫁入りだからな。着物や家財道具をやろう」とたくさんくれた。
(初めは怖い人かと思ったけど、いい人だな)
と碧人は思った。
お陰で2台の牛車で行くことになった。
夜中、要と碧人は二人で赤い牛車に乗り込む。白い牛がゆっくり赤い車を引き、狐火を灯しながら空に舞い上がっていく。
だんだん森が遠ざかっていき、途中で物部の家も見えた。
(父様、母様、紅緒、安江…今までありがとう…)
碧人は遠ざかっていく家に向かって、心の中でお礼を言った。
「碧人…」
要は何かを感じ取ったのか、碧人の肩にすり寄った。
「碧人、泣いてる?」
「え?」
碧人はいつの間にか涙を流していることに気がついた。
「碧人、悲しい?」
「少しだけ、寂しくなっただけだよ…」
「俺がいるから。ずっと傍にいるから」
「うん…」
要は碧人を抱きしめ、口づけをした。
今までより、ずっと深い口づけだった。
「碧人、こんなに近くにいるのに、もっと触っていたい」
要は碧人を頬を両手で包む。
「もっと触って、要。要のこと、全部受け止めるから」
要は碧人をそのまま押し倒し、優しく抱いた。
星空のもと暖かな気持ちに溢れていた。
東北の地に着くと、要の他にも人狼がいるらしく、その人狼たちと一緒に山を見回ったり、たまに村に出て村人の手伝いをしに行っている。
そして、山の中に捨てられていた山小屋を見つけ、所々壊れていたが、人狼たちや森の精霊たちが直してくれた。
碧人は中を掃除して、なんとか住めるような環境を作った。
病弱だった体も、今ではだいぶ良くなった。
森の空気が良いからだろうか。
人狼たちから聞いたのだが、人狼は繁殖力が強く、相手が男でも妊娠させられるらしい。
何度か体を重ねるうちに、精を受けた相手の体が雌に近づいていくためらしい。
そして、ちょうど三年経った頃、急に悪阻 がきて、碧人が妊娠していることが分かった。
安定期に入ると、食べ物も食べられるようになり、回復していった。
碧人はいつも通りにしているのだが、要が心配して、仕事にいっても一時間後には様子を見に来るのだ。
他の人狼たちは「また帰るのかー」と笑いながら許してくれる。おおらかな人たちで本当に良かったと碧人は思った。
「もう、心配しなくても大丈夫だよ!」
「でも、碧人が急に倒れたら…!」
「だから、まだ予定日には早いし…、それに近づいてきたら、要も仕事休んで僕の傍にいてくれるんでしょ?」
碧人は要ににこりと笑いかけた。
「もちろん。ずっと一緒だ」
もうすぐ、新しい家族ができる。
まさか自分に家族ができるなんて思いもしなかった。
碧人は大きくなったお腹を撫でながら、幸せを噛みしめていた。
狼の花嫁 終
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