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第14話 涙
「ご馳走様でした」
僕はお腹も心も満たされて、両手を合わせた。でも、身体は満たされてない。
政臣さんは、指をしゃぶって手を払ってる。
そういうお作法なのかな。僕も真似して指をしゃぶった。
お勤めで口を使っている所が連想されて、喉奥がひくひくしている。
政臣さんの唇は油でてらてらと光って、美味しそうだった。
「じゃあ、帰ろうか。下着を買って」
「いえ……お言葉は嬉しいのですが、僕は下着を着けた事がありません。じーぱんの時も、下着を着けなくても別段、困りませんでした。結構です」
そして、火照る身体を持て余して、控えめに言った。
「政臣さん……接吻、してくれませんか」
「充樹……」
政臣さんの手が伸びて、僕の耳朶を柔々と摘まんだ。
政臣さんは、僕の耳朶が好きなのかな。
その手を取って頬を擦り付けると、顔が近付いてきて、しっとりと接吻された。
「んっん……」
政臣さんの接吻は優しい。参拝者様の、唾液をすすって舌を絡め合う接吻とは、大違いだ。
でも柔らかく食まれ、思わず舌を差し出すと、ちゅっと弱く吸われた。
身体が、言う事をきかない。政臣さんとお勤めしたい。
僕は、じーぱんの上から、政臣さんの分身を握った。
「充樹……?」
驚いたような声が上がる。
しまった。僕はまだ、お勤めが二回目の設定だ。でも、止まらない。熱く息を吐いて囁く。
「このまま帰るのは、嫌です。せめて口で、政臣さんにご奉仕させてください」
辺りは薄暗くなってきて、林沿いのこの道は、誰も通らない。
僕は、政臣さんのじーぱんの前を寛げた。下着からまだ萎えた分身を取り出して、口に含む。
長い黒髪が、しゃらりと濃い茂みの上に散った。
「充樹!?」
政臣さんは始め、僕の肩を押し留めていたけれど、唾液を絡めて頭を上下すると、堪えきれない呻きが上がった。
口内の質量は、急激に大きくなる。
「く……充樹」
ああ、もう後ろは口を開いてる。
「充樹……欲しいのか?」
「はい。あの日以来、政臣さんの事が頭を離れません。政臣さんとお勤めしたくて、身体が疼いていました」
「ここで良いのか?」
「はい。政臣さん、早く、一つになりたいです」
僕は少しじーぱんを下ろして、政臣さんの膝の上に跨がった。
すると政臣さんは、運転席の背もたれを倒す。
「今、慣らしてやる」
政臣さんは人差し指と中指を銜えて湿らせ、後ろの孔に挿れてきた。
僕は下腹部に力を入れて、その鮮明な感触を味わう。
二本の指が、押し拡げるように蠢いた。
「あ・あっ……政臣さん、もう……っ」
「もう、大丈夫か?」
「はい」
政臣さんの片手が腰にかかって、もう片方の手で分身の角度を調節して、僕の後ろの孔に宛がう。
ああ……! 僕はそれだけで酷く感じて、顎を上げて仰け反った。
「あ……はぁ」
僕が初心者だと思っている政臣さんは、ゆっくりと挿入 るよう、両手で腰を支えてくれる。
だけど僕は堪らずに、ぐりぐりと回しながら腰を落としていった。
政臣さんが息を詰める。
「くっ……充樹」
幼い頃からお勤めしてきた僕だけど、政臣さんとのお勤めは、すぐに達してしまいそうなほど心地良かった。
参拝者様に満足して頂く為にいつもするように、頭の中で今日読んだ新聞の記事を反芻 する。
ぱんだの赤ちゃん……。期日前投票はお早めに、保育園建設に周辺住民反対、あぁっ!
「あっあ・政臣さん、好きっ、ですっ」
無意識に言葉が口を割る。
何でこんなに心地良いんだろう。政臣さんが言っていた、夫婦だから? 『愛している』から?
だけど腰を振ると善い所を政臣さんの先端が抉って、何も考えられなくなった。
「充樹……充樹」
「政臣、さんっ」
息を荒くして、僕たちは腰を擦り付け合う。
だけど政臣さんは何か思い出したように、倒した座席の頭の上を探った。
「政臣さん?」
「充樹……後ろから、ティッシュ取ってくれ」
「はい……っ」
後部座席にはちり紙があって、前のめりになって箱ごと取ると、政臣さんの逞しい雄がずるりと抜けかかって背筋を電流が走った。
箱を渡すと、政臣さんは五~六枚ちり紙を引き出した。
途端、突き上げが激しくなる。
「あ・ひ・善いっ! 達します……!」
「俺も……っ」
僕の中を政臣さんの精液が満たすのと、聖液が溢れるのとは、ほぼ同時だった。
「う……っく」
「はぁ……充樹、大丈夫か?」
「はい」
「辛かったんじゃないのか?」
上半身を起こして、政臣さんの長い指が、気遣わしげに僕の目の下を拭う。濡れている。
「何……?」
「涙だ。泣いてるんだ、お前」
「泣いている?」
僕はぼんやりと呟いた。お勤めで泣いた事なんか、一度もなかった。物心ついてから、先代に叱られた時も、悲しくはなったけど、涙なんか出なかった。
僕は今日、怒って、泣いて、驚いて、知らなかった感情を沢山知った。
「いいえ。これは……あまりにも心地良くて。政臣さんが、大好きで。嬉しい時にも涙が出ると新聞で読んだ事がありますが……きっと、それなんだと思います」
「そうか。充樹、愛してる」
唇が触れ合った。
嬉し過ぎて、何だか胸が苦しくて、涙が後から後から頬を伝う。
「政臣さん」
「ん?」
大きな掌が、長い髪を梳くように撫でてくれる。
「胸が苦しくて、涙が、止まりません。これが……『愛している』という事なのでしょうか」
「ああ、そうだ。言ってくれ、充樹」
「愛しています……政臣さん、愛しています……」
またちり紙を引き出して、政臣さんが涙を拭ってくれる。
先のちり紙は僕の先端にかけられていて、洋服を汚す事なく帰る事が出来たのだった。
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