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第22話 少し、恐い

「お勤め、よろしくお願い致します」  お勤めの間で、金糸銀糸の布団の横で正座して待っていた政臣さんに、三つ指をついて平伏する。  前室で、口をすすいで手を洗い、肩にかかる長い黒髪に櫛を通す間、僕はどきどきしっぱなしだった。  「お勤めをする」と聞いて身体が疼く事はあったけれど、こんなに心騒ぐのは、政臣さんしか居ない。 「充樹、近くに来い」 「はい」  柔らかく抱擁されて、髪を梳くように撫でられる。昨日、歌に詠んだ、指の感触。  参拝者様と同じ背広だったけれど、痩せ形で長身の政臣さんが着ると、別の着物みたいに格好良かった。  僅かに身を離して、顎を持ち上げられる。唇が触れ合って、やっぱりお豆腐の接吻をされた。政臣さんの唇も、湯豆腐みたいに、暖かくて柔らかい。  僕も真似して、角度を変えて、はむはむと(ついば)み合った。 「んっ」  優しい接吻に安心して身を任せていたら、不意に後ろ髪をぐん、と引かれて仰け反らされた。  上から覆い被さるようにして、接吻が激しいものに変わる。  舌が入ってきて器用に歯列をなぞられ、唾液が注ぎ込まれた。 「は……」  僕は、普段のお勤めでは、激しいのが好みだった。優しい政臣さんの思わぬ荒々しさに、酷く興奮して、顎を支えている方の逞しい拳に掌を重ね、きゅっと握る。 「充樹、ちょっと待っていろ」  政臣さんが、もどかしげに背広を脱ぎ捨てる。下着一枚になって僕ごと布団になだれ込もうとするのを、思わず押し留めた。 「いけません。背広が、(しわ)になってしまいます」 「いい」 「駄目です。この後、お仕事があるのですから」  僕は畳の上に乱雑に散らばる背広を拾って、履き物の折り目を正して衣紋かけ(はんがー)の横棒に下げ、上着をその上から羽織りかける。 「あっ、いけま、せんっ」  軽く叩いて皺を伸ばしていたら、座った政臣さんが、袴の紐を解いて小袖の裾を割り、僕の下半身を露出させた。そのまま、芯を持ち始めている分身を銜えられる。 「あっ、政臣、さ・んっ」  僕は快感に砕けそうになる下肢に力を入れ、何とか背伸びして衣紋かけを押し入れにかけた。  一瞬後、僕はわだかまった袴に脚を取られてへたりこむ。  政臣さんの顔も、着いてきて下りた。  布団の中ではなく、まだ夜は花冷えのするひんやりとした畳の上で、僕の分身を政臣さんがしゃぶっている。  技巧よりもその光景に感じ入り、僕はあっという間に張り詰めた。 「ん・あっ、そんなに・したら……っ、達して、しまいますっ」  政臣さんの顔が上下すると共に、首が左右にも振られて髪が乱れる。   今日の政臣さんの愛撫は逞しくて、相手が政臣さんだというだけで興奮するのに、おかしくなってしまいそうだった。 「あっあ・駄目、零れるっ」 「零れる、か。こんな時まで風雅なんだな」 「んぁっ」  口内から分身を出し、先端に唇をつけたまま、両手で幹を扱きながら言う。   「幾らでもイけ。寂しかっただろう?」  再び口に含まれて、先端の割れ目をつつくように舌を使いながら、鎌首のへこみに唇を引っかけて浅く注挿される。幹は、両手で扱かれ続けたまま。  沢山の参拝者様のお相手を勤めてきたけれど、こんな刺激は初めてだった。 「あぁっ・ん・あ、達します……!」  どくりと脈打つと、政臣さんは僕を滅茶苦茶に追い上げた。 「ひゃ・やあぁんっ!!」  酷く心地が良かったけれど、達してしまえばその刺激は毒になる。  達したばかりの僕の敏感な分身を、政臣さんはなおも苛めた。 「や・駄目・変に、変になっちゃうぅっ」 「なっても良いぞ」 「あ・あぁっ!」  僕は半狂乱になって目をきつく瞑り、首を左右に振った。長い髪が乱れる。  言葉さえ紡ぐ余裕がない。  何これ……凄い、何か、漏れちゃう、死んじゃいそう……っ! 「はぁっ・や・やぁっ……く・あぁ、あぁあっ!!」  普段達する時の数倍心地良く、違う感覚で先端から何か飛び出す。  政臣さんの喉仏が上下して、全て飲み下された。  ああ……僕の聖液、政臣さんに飲んで頂けた……。  至上の喜びを感じながら、ぐったりと畳の上に横たわり、はーっはーっと身体全体で息をする。  ぐしゃぐしゃに乱れて汗で頬に貼り付く髪の毛を、政臣さんが整えてくれた。 「ひゃ……」  急に浮遊感がして、僕は思わず爪先で(くう)をかく。  軽く抱き上げられて、布団の上に運ばれていた。  柔々と耳朶が摘ままれる。  「上手く、潮噴き出来たな。気持ちよかっただろう?」 「しおふき……?」 「ああ。普通にイくのより、ずっと気持ちいいそうだ」 「死んで……しまうかと、思いました……」  僕の狩衣の腰帯を解いて脱がせながら、政臣さんは笑う。  僕の好きな、涼しげな奥二重を細めて。 「はは。そんなに善かったのなら、男冥利に尽きるな。……凄く、興奮する」  後の台詞は、耳元で囁かれた。穴の中に息が吹き込まれて、背筋がぞくりとする。 「政臣さん。もう、解してあります。あの……」 「欲しいのか?」 「はい」  膝裏に掌がかかって、身を折られる。僕の孔が、政臣さんの目に晒された。   「ホントだ。もう、ヒクヒクしてる。充樹は、無邪気なのに、こういう時は堪らなく色っぽいな」  下着を脱いで、政臣さんの猛った逞しい雄が、潤滑油で潤った孔に、ぐっと挿入(はい)ってくる。  一番太い所が(すぼ)まりを通る時の息苦しさは、何年経っても残ったけれど、政臣さんのならそれすらも喜びだった。   「あ・あ……善いですっ」 「こら、そんなに締めるな。イくだろう」 「政臣さんとお勤め出来るだけで幸せですから、どうぞ達してください」 「本当に、お前という奴は……我慢出来ないだろうがっ」 「あんっ・んっ・ああ……善いです……っ!」  前立腺が擦り上げられて、堪らずに僕も、息を合わせて腰を振る。  水っぽい音が、ぱちゅぱちゅとお勤めの間に木霊した。  脚を目一杯開き、政臣さんの項に腕を回して、引き寄せる。少しでも近くに行きたかった。   「充樹……充樹、お前、きゅうきゅうだな……ヤバい、情けないけどイきそうだ」 「んっ・んぁ、達して・くださいっ、政臣さんっ」  僕は神経を集中させて、後ろの孔をぎゅうと締め上げた。  出入りする政臣さんの鎌首が、柔肉の輪に引っかかる感触が鮮明に伝わってきて、また分身が熱を持つ。 「う……充樹っ」  政臣さんの整った眉毛が、官能的に歪む。こめかみから伝った汗が一粒顎から落ちて、僕の喘ぐ口の中に入った。  しょっぱい、汗。政臣さんの味。  全てを見ていたくて、僕は努めて目を開けていた。 「イく……っ」 「あっあ・僕・もっ」  僕を気遣う余裕もなくして、腰骨を掴まれて突き上げられる。  僕の好きな政臣さんに、僕の好きな荒々しさで。  これが背後からだったらどんなだろうと妄想して、ますます熱を上げていく。 「ひぃ……んっ!!」  政臣さんがぎゅっと目を瞑って腰を大きく突き出すと、精液で中を熱く満たされるのが分かった。  その瞬間、僕はまた達していた。薄い腹筋の上に、聖液が散る。   「はぁ……んっ」  熱い楔を抜かれる時も、息苦しさを感じた。政臣さんは、ちっとも萎えていなかった。  肌を合わせて抱き合うと、涙の滲む瞼を舐められて目を閉じる。  何だかそれだけで、まだ疼く身体の奥を舐められているような、不思議な感覚だった。  少し、恐くなる。幸せ過ぎて。

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