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第35話 お豆腐
五日後、ついに政臣さんとの逢瀬の日が来た。今日も、お勤めの間での逢瀬だ。
先代は、何としても充樹と政臣さんを契らせたいらしい。
部屋で話す事もせず、いきなり前室に連れていかれる。
口をすすぎ手を洗って、長い黒髪に櫛を通した。
「政臣さん。お待たせ致しました。充樹でございます」
三つ指をついて平伏すると、家人が、襖を両側から開ける。金糸銀糸の広い布団の横に、政臣さんが背広で正座して待っていた。行灯がぼうと光る。
俯いてお勤めの間に入り、政臣さんの前で改めて平伏した。
「よろしくお願い致します」
顔を上げて、初めて目が合い、我慢しきれない幸せに、にっこりと微笑む。
緊張していた政臣さんの顔が、はっと息を飲んだ。
僕だって、気付いてくれたかな。
だけど確かめる間もなく、再び前室の襖が開いた。充樹が入ってくる。
えっ? 何で、充樹が?
充樹も、僕と政臣さんを見てびっくりしている。
襖は開けっ放しで、先代が座っていた。
先代は、けしてお勤めの間に入らない。穢れているから。
布団を挟んで反対側に、充樹は所在なく座った。
「入ってください」
「はぁい」
先代が声をかけると色っぽい返事が返り、参拝者様が入ってくる時に使う入り口から、妙齢の単衣を着た女性が入ってきた。
お腹様! 何で、今更……。
僕より大きいすらりと長い手脚をもったお腹様は、わざと充樹にくっつくようにして、脚を崩して座った。
「政臣さん。今日こそ、充樹と契って頂く。あちらは、お腹様。珠樹と七日七晩まぐわって、子を成している」
「これ、母子手帳ね。これは、エコー写真。今、七週目よ」
お腹様が得意げに見せ付けた白黒写真には、真ん中に豆粒みたいな二頭身の人型が写っていた。
この子が……僕の子供……。
政臣さんへの愛とは別に、不思議な感情に、手脚の先が暖まるような心地がする。
「政臣さん。珠樹を愛しているなどと言ったそうだが、今後は充樹と契って頂く。今ここで充樹と契らなければ、珠樹とお腹様が契る所を見る事になる。どちらか、選んで頂こう」
僕は再び、政臣さんと目を合わせた。
「心をこめて、お勤めさせて頂きます」
そう微笑み、左掌を右掌で支えて、身を捧げるように前へ出す。
政臣さんの視線が素早く左掌を確かめ、ほっとしたように息を漏らした。
「政臣さん。珠樹と違って、充樹はお勤めが初めてです。優しく愛してやってください」
「……分かりました。二人にしてください」
「いや。今ここで、と言いました。珠樹にも、もう政臣さんは充樹のものだと知らしめる必要がある。さあ、政臣さん」
僕たちは、覚悟を決めて頷き合った。
「分かりました」
そう言って政臣さんは立ち上がり、僕にも手を差し出して立ち上がるよう促す。
手を握ると、力を込めて引き上げられた。
逞しい腕の中にすっぽりと包まれ、愛しさが募って胸板に頬擦りする。
顎を取られ、優しくお豆腐の接吻をされる。はむはむ。はむはむ。
それだけで、次第に周りの風景がぼんやりと霞んでいった。僕の心の中には、政臣さんだけ。
「服を脱ごう」
「はい」
僕たちは見詰め合ったまま、一枚、また一枚と衣服を脱ぎ落としていく。全て脱いで生まれたままの姿になり、布団に入った。
ちゅ、ちゅと、顔中に接吻される。ちろりと鮮やかな紅色の舌が覗いて、僕の唇をゆっくりとなぞってから、喉仏へと下がっていった。
「あ・あん……政臣さん……」
胸の色付きを指で軽く弾いて勃たせてから、舐め、しゃぶり、甘噛みされる。
僕は政臣さんの後ろ髪を掴んで、息を乱しながらも顎を下げて、その官能的な光景を余す所なく見下ろしている。
てらてらと濡れた筋を残して舌がへそに入り、腰がぴくんと跳ねる。
「あっあ、善いっ……」
「充樹。どうやって抱かれたい?」
「あんっ」
訊いておきながら、裏筋から先端まで舐め上げられ、僕は応える事が出来ない。
「充樹。最初は、バックが良いと聞く。身体に負担がかからないそうだ」
政臣さんが、背後から突いてくれる。そう思っただけで、先端からとろとろと先触れが溢れた。
「充樹、四つん這いになれ」
「はい」
狭い腕の中で、俯せになると、腰骨を掴んでお尻だけを高く掲げさせられる。
硬く尖らせた舌が、後ろの孔に挿入 ってきた。
「あ・あ……」
同時に、指も二本、挿れられる。浅い所で舌がひらひらと刺激し、指は善い所を撫でたり突いたりしながら、拡げられる。
本当はもう充分だったけど、『充樹』は自分から強請ったりしない。その思いで、目をきゅっと瞑って耐えた。
「まさ・おみ・さんっ」
名を呼んで、気付いて欲しいと腰を揺らめかす。
「もう、挿入 りそうだな」
ああ、政臣さん。早く、早く、貴方の硬いので突いて……っ。
「充樹。痛かったら、言えよ」
「はい……あぁ」
初めて背後から味わう政臣さんは、今までにないほど、硬く硬く張り詰めていた。
善い所を抉るように、ぐりぐりと細かく注挿される。
「あっあん・凄いっ」
その刺激は酷く心地良くて、僕も呼吸を合わせて小刻みに腰を振った。
激しく突かれるより、もっと深い快感があるなんて、知らなかった。
「充樹……イイか?」
背中に接吻されて、僕はどんどん熱を上げていく。
「ん・善いっ・政臣・さんっ」
「俺もイイ……お前の中、とろとろでキツくて最高だ」
そんな言葉にさえ感じて、奥が疼く。
「あ・ん、何だか……変、あっ・おかしく・なって・しまいますっ」
男性子宮の入り口を擦られると、熱がそこに集まるような、不思議な心地になってくる。
善いけど、普通に達する時と違う、目も眩む快感だった。
「大丈夫だ。俺が、しっかり捕まえててやる」
「あっ・ぁんっ・はぁ、ひゃんっ」
口角から、身も世もない喘ぎ声がひっきりなしに漏れる。合間に、飲み込みきれない唾液も糸を引く。
「イきそうか?」
「はい、もう……っ達しま・すっ」
「俺も、イく……一緒にイこう、……き」
耳元で、僕にだけ聞こえる吐息で、珠樹、と呼ばれた。
ああ、ますます鼓動が跳ね上がる。
「んっ、あ……あ――……っ!!」
集まった熱が、勢いよくぱぁんと弾ける。僕は後ろで達していた。勃ち上がった前からは何も出ず、孔がきゅうきゅうと収縮する。
まだ後ろで達した事は、数えられるくらいだった。
普通に達する時の何十倍もの心地良さが、延々と身体を支配する。
「ひゃあっ! あぁんっ!」
政臣さんが、僕の収縮に合わせて、敏感になっている胎内に精液を叩き付ける。
「いやぁ、駄目ぇっ!」
「イく……っ」
中がどくりどくりと満たされて、僕はあまりの快感に放心してしゃくり上げていた。
「ひ……っく」
政臣さんの雄が引き抜かれ、仰向けにされ、いつかみたいに濡れた瞼を舐められる。
僕は政臣さんの項に腕を回して、お豆腐の接吻を強請った。はむはむ。はむはむ。
「良かろう」
二人きりだった世界に、突然先代の声が割り入ってきて、僕たちははっと身を離した。
「服を着なさい」
「はい」
身を焦がす快感はまだ持続していたけれど、何とか立ち上がって、僕たちはそれぞれの衣服を整えた。
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