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逃亡大作戦
「そろそろ諦めが付いたか?」
彼の言葉に返事などしてやらない。
絶対にしてやらない。
何故かって?
彼のもとから飛び出そうと試みて早一週間、未だに此処を去れずにいるからだ。
悔しくて返事など出来るわけがない。
「まさか本当に抜け出せると思っていたとは驚きだ。そこまで無知な奴がいたとは...」
「貴方より無知ではありません!今まで沢山旅をしてきて、沢山のことを学んできました。これからだって旅を続けて、また新しい知識を身に付けるんです。だからもう邪魔しないで下さい!」
馬鹿にされ思わず噛み付いてしまったが、そんな僕に哀れむような目まで向けてくるものだから余計に頭に血が登ってきてしまう。
「貴方が僕を解放すれば良いだけじゃないですか。なのにいつも去ろうとする僕を引っ張って...。僕のことに興味があるわけでもないくせに」
「はぁ...。何度も説明してやっているだろう?俺の意思で、一度懐に入って来た奴を手放すことは出来ない。掟なんだ。今まで色々学んできたなら掟ぐらい把握してるはずだ。何を駄々を捏ねてるのか知らないが、恨むのなら俺に惹かれた自分自身を恨むんだな」
そう言った後、彼はもう言うことはないとばかりに目を閉じてしまった。
はあ...。
思わず大きなため息が溢れてしまう。
そう、彼の言う通り本当は分かっているのだ。
一度引き寄せられたらそれが最後。
自分がいくら頑張ったところでもう、死ぬまで彼から離れられない。
今まで沢山の「想い人」と「親衛隊」を見てきた。
けれども一度だって「想い人」から離れていく「親衛隊」を見たことなどないのだ。
今まで頑なに否定してきたけど、僕はきっと彼の瞳に惹かれ、迂闊にも彼に近づき過ぎてしまったに違いない。
「想い人」は確かに周りを自分に魅入らせ、引き寄せるけれども、それはあくまで自分に近づいてきた者に対してのみだ。
だから一定の距離を保っていれば強引に引寄せられることはない。
僕は今まで「想い人」たちに近づき過ぎないよう細心の注意を払って旅してきたし、万が一惹かれることがないよう、あまり顔だって合わせて来なかった。
それなのに、僕はあの時彼の目を食い入るように見つめてしまった。
そして、彼の瞳の美しさに吸い込まれて...。
僕は間違いなく彼の瞳に惹かれて、知らず知らずのうちに彼に近寄ってしまっていたのだ。
もう僕が彼から逃げようとする理由はただの意地と、そしてプライドでしかないのである。
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