11 / 16
第11話
「勇者よ」
傷付けないように頬に触れると驚いた勇者が勢いよく顔を上げる。
急に顔を上げたせいで爪が当たって勇者の頬に傷が走り、血が滲み出た。
「っ……」
「あ……すまない……」
「……え?」
思わず謝ると勇者がぽかんと私を見上げる。
魔王に謝られるなどと思わなかったのだろう。
その頬の傷を治す為に勇者の肩に手を置くと、舌でゆっくりと血を舐めとる。
勇者は何も言わないまま硬直している。
それをいいことに、傷が治った後も暫く頬を舐め、傷とは関係ない耳朶まで舌を伸ばした。
「なっ……ちょっ……」
流石に動揺して身動ぎする勇者の耳の中に舌を入れて掻き回す。
「ん、あっ!? ちょっ、なにっ……ひゃっ」
いちいち反応が大袈裟でそれもまた可愛く感じる。
ああ、私はもうこの勇者には一生、勝てはしないだろう……。
魔王を倒す方法がまさか、『恋』に落とす事だとは。
ともだちにシェアしよう!