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第21話 探索の旅立ち(7)
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ソファに倒れ込んだノア・アシュレーを、悲し気な顔で見つめるヘイウッド校長。小さくため息をつきながら、ティーカップを片付けていると、静かにドアを開ける者がいた。
「部屋に入る時は、ノックをしなさいと、教えられませんでしたか、ヘンリー」
「すみません、校長先生。」
謝っているようには聞こえない不遜な声。
魔法省の役人のヘンリー・フルブライトは、ゆっくりと部屋の中央に向かってきた。黒い上下のスーツを粋に着こなしてはいるものの、頭部は少し寂しくなっている。
「もう、彼も眠っている頃だと思いまして。」
ソファの上からのぞきこんでノアを見下ろす。
「彼から、話は聞けましたか?」
ナレザールの手紙は、ノアが倒れ込む時に胸に抱え込んでしまったせいで、覗き込むことができなくなってしまった。
「ええ、ナレザールは娘の痕跡を見つけた最後のところへ向かったらしいわ」
「最後の場所は、ご存じですか」
するどい眼差しで、ヘイウッド校長を見つめる。
「ええ」
「では、彼をそこまで連れていきましょう。そこから先は、コレに任せるしかないでしょう」
そう言ってヘンリー・フルブライトは、スーツの中から、掌サイズの小さな透明な箱を取りだした。その中には、子犬のようなモノがスヤスヤと眠っている。
「それは?」
「魔法省で開発した新しい魔法犬です。彼とコレで追いかけてもらうしかありません」
「はぁ……」
ヘイウッド校長は重くため息をつく。
「この子に、こんなことをさせたら、ナレザールは激怒することでしょう……」
「どんなに怒られたとしても、これは我々のためには必要なことなのです」
「しかし……」
「そもそも、彼がこの学校にいる意味があるんでしょうか」
「っ!?」
言葉もなく、ヘンリー・フルブライトを見つめ返す。
「我々は二年待ちました。最初の一年は仕方がないと思いました。なんとか二年目も越してこれました。しかし、もう、限界です。いつまでも、長期の休みとは言ってられません」
そう言うと、ノアの手元から手紙を取り上げたが、一瞬でそれは燃えてしまった。
「本当に、あの人は勝手なのですから」
苦々しく言うと、ノアを軽々と抱き上げた。
「では、彼は連れていきます。後のことはヘイウッド校長、よろしくお願いいたします」
重いドアが静かに勝手に開くと、ヘンリー・フルブライトは部屋を出て行った。
ヘイウッド校長は、二人が出て行くのを立ち上がるでもなくただ見送りながら、苦しそうに小さく呟やいた。
「……ナレザール、ソフィア、ごめんなさい……」
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