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第28話 探索の旅立ち(14)
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僕が目が覚めたのは、目の前には鬱蒼とした木々が生い茂り、 背後は夕日で真っ赤になった空と、すでに麦を刈り取られた後の畑が広がる場所だった。道路は舗装されておらず、こんなところ、よく車で入って来たな、と思うようなところだった。
「目が覚めましたか」
僕は見知らぬ車の後部座席に座っていた。
運転席のほうから聞こえた声に、思わずピクリと反応する。ゆっくりと顔をあげると、見知らぬおじさんが運転席からバックミラー越しに僕を見つめていた。
「意外に早くに目が覚めましたね」
僕は慌てて起き上がると、周囲を見回した。
「あ、あの、あなたは誰ですか……」
運転席から遠い方のドアへとジリジリと動く。
「私はヘンリー・フルブライト。魔法省の人間です」
魔法省……学校の授業で習った。一般の魔力のない人間には秘匿されている組織。魔力に関わる事案すべてを担当しているところだと。
「そ、その魔法省の人が、僕になんの用ですか」
いつでも逃げ出せるように、僕は車のドアのロックを確認する。
「逃げられませんよ。こっちでロックしてますから。」
冷たい眼差しで僕を見るフルブライトさんの言葉に、身体が強張る。
「君には、これからアシュレー夫妻を探していただきます。」
「アシュレー夫妻……?おじいちゃんとおばあちゃん?……え、あ、あの手紙……あ、あれ!?」
僕は思い出した。
そうだ、僕は校長室で校長先生とお茶を飲みながら話をしてた。そこで、おじいちゃんの手紙を読んでたんだ。
「申し訳ありませんが、あの手紙なら燃えてしまいました」
そう言いながら、全然、申し訳なさそうな顔をしていない。
「あなたには、コレを使って、お二人を探し出していただきます」
フルブライトさんが振り向きもせずに手を差し出した。
掌には、小さな透明な箱の中に、茶色い子犬が入っていた。あまりの小ささに、目が釘付けになる。
「早くとってください」
「あ、はい」
手に取った箱は、思ったよりも軽くて驚いた。茶色い子犬は、スヤスヤと眠っている。
「……かわいい」
「ソレは、探索用の魔法犬です。箱から出した者の探したい相手、特に血縁者を探すのに有効です。」
フルブライトさんの説明を聞きながらも、僕は子犬から目が離せない。
「なので、車から出たら、ソレを箱から出してください。それと持って行ける荷物はそこにあります。」
言われて気が付いたが、僕の隣の席に、ずいぶんと小さなリュックのようなものが置かれていた。
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