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第32話 足跡を辿れ(3)
「ポップン!」
僕はポップンの鳴き声がしたほうへ駆け寄ろうとしたら、
「ワン!」
逆に目の前にポップンが飛び込んできた。
「うわぁっ!?」
ポップンにのしかかられて倒れ込む僕。息をハァハァいわせながら、僕の顔をぺろぺろと舐めてきた。
「も、もうっ!どこ行ってたんだよぉ。」
僕がポップンの首に抱き付いたら、ポップンは元気よく「ワン!」と吠えた。
「な、何?」
ポップンが僕から離れようとするので、腕を離した。だけど、今度は僕がついてくるのを待つように立ち止まっている。
「ついていけばいいのかい?」
僕の問いには答えずに、ポップンは枯草を越えていく。だけど、さっきみたいに走ってはいかず、僕がついてくるのを待ってくれる。ポップンは、僕をどこに連れていこうとしているんだろう?
それは意外にも、すぐ近い場所にあった。
そこだけが周りの木々から離れて、とても大きな枯れ木がポツンと一本だけ立っている。月明かりに照らされたその木は、とても神秘的なもののように見えた。その木の根元あたりにポップンは座って、僕を待っている。枯草を踏みしめながら、ポップンのそばまで行くってみると、その根元には、大きなむろができていた。
尻尾を振りながら、僕の顔を見上げるポップンは『僕、すごいでしょ?褒めて?』と言ってるように見える。
「ここに何かあるとでもいうのかな……」
僕はその木の周りをぐるっと見て回ったけれど、これといって何の変哲もない枯れ木にしか見えない。ポップンはずっと尻尾を振り続けながら、歩いている僕を見続けてる。
「ポップン……ここに何があるというの?」
僕は枯れて裸になっている木を見上げながら木に手をつけた。枯れ木の木肌は、すでにボロボロになっていて、ちょっと触れただけで、ポロポロと剥がれていく。僕は掌についた欠片を両手で叩き落として、再びポップンの前にしゃがんで、問いかけてしまう。
「なぁ、ここが何だって言うんだ?」
そして、チラリと根元のむろに目をやった。
「……ん?何か落ちてる?」
手を伸ばして指先でつまんだそれは、片方だけの少し褪せた黒い革手袋?サイズから言ったら女性用のものと思われた。なんで、こんな森の中に?と思いながら触っていると、手首に近いところに、小さな刺繍が施されているようだった。
「あ、これは」
それはよく見慣れたものだった。
「アシュレー家の紋章じゃないか……」
百合の花に柳の木。
おじいちゃんの持っていた杖と、指輪についていた紋章を、自慢げに話をしていたのを思い出す。これはもしかして、おばあちゃんのもの?僕は慌てて、もう一度、この手袋をしげしげと眺めた。木のむろと、周りの枯草のおかげなのか、あまり風雨にさらされてはいないようだった。それでも、最近ここに置かれたものではないように見える。
「ここに、おじいちゃんたちが来たということ?」
思わず、ポップンに目をやる。『ね、ちゃんと見つけたでしょ?』と言わんばかりに、僕を見つめる。
「お前、すごいな!」
僕は、ポップンの顔を両手で挟んで、もみくちゃにしてしまった。
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