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第33話 足跡を辿れ(4)
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ノア・アシュレーが木肌に触れたと同時に、見えない琴線が震えた。
そして、その震えが、とある一軒の家の住人のもとに届いた。
「――また、誰か、あそこに来たというのか?」
斑柄のネコ科の動物の頭をした獣人がポツリとつぶやく。家の中の暖炉の前で、大き目なナイフを研いでいた。
「あんた、あの方に連絡を入れないと」
茶トラのネコ科の頭をした獣人が、料理をしながら振り向きもせずに、後ろにいた斑柄に言う。
「……いや、でもこの前も連絡したばかりだしな」
今年はキノコが豊作でわざわざここまでキノコ狩りにくる人間や獣人が多かった。つい先週も同じような家族連れの人間たちが来て、あのあたりでキノコ狩りをしていった。
「今月だけで、すでに三回は来てるし」
斑柄は白い髭をひくつかせながら、考え込む。
「でも、こんな時間だよ?さすがに、この暗闇でキノコ狩りはしないだろ?」
月灯りが明るいとはいえ、確かにこんな時間にいる奴らはいないか、と思った。
「わかった。とりあえず、様子を見てこよう。連絡するかどうかは、それからだ」
「はいよ。早いとこいっておいで。戻ったら、夕ご飯にしようじゃないか」
「ああ」
そう言うと、斑柄は研ぎ終えたナイフを腰に差すと、静かに家を出て行った。
この家から、大きな枯れ木までは人の歩く速度だったら、小一時間はかかってしまうところを、この斑柄はものの十分もかからずにその場に着いてしまう。
月灯りの下の枯れ木は、何度見ても神秘的で、そして陰惨なイメージを思い出させる。斑柄と茶トラは、この枯れ木を監視するようになって、もうすぐ十年以上になる。主人から命じられ、理由もわからず監視をしつづけ、ようやく二年前にある夫婦を捕える一歩手前まで行った。残念ながら、そいつらには逃げられたけれど、主人からは、監視は続けるように指示された。
今度のそれが、主人の目的としたものであれば、ここの仕事を終えて首都に戻れる。そうすれば茶トラと、もう少しましな生活ができるのに、そう思いながら、木の影から枯れ木のほうを見つめる。
「ん……?犬か?……しかし、あれは動物の接触くらいでは反応しないはず……っ!?」
ちょうど枯草に隠れていたのか、突然、一人の人影が立ち上がった。
風に乗って、そいつの匂いが届く。これは人の子……と、狼の匂い!?
犬と人影が、枯れ木から離れていく。
斑柄は、音もなく彼らの後を追った。
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