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第34話 足跡を辿れ(5)
***
枯れ木から離れ、もとの道に戻った僕とポップン。
おばあちゃんの皮手袋を手にいれたものの、たぶん二人はここに来た、という痕跡を見つけただけで、彼らがその後どこに向かったかがわかったわけではない。それでも、何もないスタートよりも、だいぶ気持ちが緩んでしまったのは事実。
「さぁ、ポップン、もう、後は前に進むだけだからね?」
そう声をかけた僕に、素直に返事をしてくれるもののと思ったら、ポップンが急に低く唸りだした。
「え?どうかした?」
僕は不安になって、手にした懐中電灯をやたらめったらに振り回して、周りを照らした。
「うわっ!?」
「えっ!?」
突然の声に、僕は驚いて懐中電灯を落としそうになる。
「ワンワンワンワンッ!」
ポップンは、その声の主に吠えまくりながらも、僕を護ろうと前に出た。
「お、おい、その光を向けるのやめろ、それと、そいつ、そいつを大人しくさせろっ!」
光をよけるためにか両手で顔のあたりを隠しながら、文句を言う人は……斑柄の猫の頭をした人だった。
「ポ、ポップン、ちょっと落ち着け」
僕は ポップンをなだめながら 、懐中電灯の光を彼の足元に向けた。
獣人って……こんななんだ……。
初めて見た生の獣人の姿に、僕は呆然として見つめてしまった。
「おい、あんた、こんな時間に何してんだ」
あ、しゃべってる。
この口でどうやったら、普通に会話ができるんだろう?思わず、ジッと見つめ続けてたせいで、相手のほうが苛立ってしまったようで、
「おいっ!」
そう怒鳴ると、一歩前に出ようとした。その動きに、ポップンは再び唸りだす。
「あ、す、すみません。ぼ、僕……この子と……た、旅に出てまして……」
答えながら、自分の格好を見下ろすと学校の制服のままだっていうことに気が付いた。そして、自分の言った言い訳も微妙に聞こえるかもしれないということも。
「……旅?……その格好でか?」
斑柄の獣人が、胡散臭そうな顔で僕をジロジロロ見てる。
「……お前……もしかして……」
何を言われるのかわからずにドキドキする。その緊張がポップンにも伝わるのか、小さく唸ってる。
「……家出でもしてきたか」
心配そうな声で話しかけてきた斑柄に、僕はびっくりした。そして彼はゆっくりと近寄ってきて、こう言った。
「もう、こんな時間だ。こんなところを子供と犬だけで歩くのは危ない。よければおじさんのところに来なさい」
……この獣人はおじさんだったんだ。
変なところに感心してた僕は、不思議と自然に頷いてしまった。
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