38 / 160
第38話 足跡を辿れ(9)
「もう行くのかい?」
朝食を食べ終えた僕に、茶トラのおばさんが、心配そうに言う。そして、小さな紙袋を手渡した。
「これ、おばさんが作ったパンと、果物が入ってるから、途中お食べ。」
そして斑柄のおじさんは、昨夜おじさんが来ていた革のジャケットを僕に羽織わせた。
「え、おじさん、これ」
「その格好じゃ、もう寒いだろう。俺は同じのをもう一枚持ってる。お前が着ていけ」
そう言って、僕の背中を軽くたたいた。
「本当は、ちゃんと家に帰れ、と言いたいところなんだがな。それが無理なら、一緒に行ってやりたいが、俺は長いこと、ここを離れられんから」
苦い顔をしながら、茶トラのおばさんの顔を見た。おばさんも、困った顔をしながら頷いた。
「とにかく気を付けていけよ。この道をずっと歩いていけば、この国で最初の大きな村がある。人の足でどれくらいかかるかは知らんがな。そこから先はバスが走ってるはずだ。まずは、その村を目指すことだ」
おじさんとおばさんにペコリと頭を下げて、僕とポップンは村へ向かう道を歩き出す。
「そうだ、坊主、お前、名前は?」
あ、すっかり名乗りもしなかったことを思いだした。
「ノア、ノア・アシュレーです!」
僕は、ニッコリ笑いながら手を振って、前を向くと、早足で歩き出した。
***
「ノ、ノア・アシュレーだって……?」
斑柄は大きく目を見開きながら、思わず小さく呟いた。
「アシュレーといえば、大魔法使いの……」
驚愕した面持ちで茶トラは斑柄を見上げた。
「ああ、そうだ。よかった。やっぱり、俺たちじゃ無理な相手だった」
「そうだね……」
「と、とにかく、あの方からの連絡を待って、このことをお伝えせねば」
二人は、去っていくノアの後ろ姿をチラリと見ると、そそくさと家の中に戻って行った。
ともだちにシェアしよう!