42 / 160
第42話 足跡を辿れ(13)
部屋の奥に、抱き合った二人のネコを見つけた。怒りの表情の斑柄と、恐怖の表情の茶トラ。
「おい、ここにノアという男の子が来ただろ。嘘をついても無駄だぞ」
俺の睨みに、斑柄のネコが反抗的に見返して来た。
「……ノアの匂いが残ってるんだ」
斑柄のネコの鼻っ面まで顔を寄せる。茶トラのほうは、『ノア』の名前にピクリと反応したのが目の端に見えた。
「し、知らないっ」
それでも、斑柄は答えなかった。生意気に見返してくるこいつの目に、俺の怒りの限界ラインが切れそうになった時。
「レヴィ、この家、ハザール家の持ち物だ」
エリィが冷静な声で、そう告げた。
奴が指さした食器棚の中に、ハザール家の紋章の入った皿が飾られていた。
「何、ハザールだと」
その名前に、俺の野生の勘がピリピリしだした。
「あ、あんたたち、何者だっ。お、狼だからって、ハザールの家に何をしてもいいと……」
「お前のほうこそ、身の程を知れ、と、さっきも言っただろう。」
エミールが冷ややかに、斑柄を見下ろした。
「レヴィ皇太子に対して、正直に答えなかったのだからな」
その言葉を聞いて、 斑柄と茶トラのネコの二人は 、えぇぇっ!!、と声をあげると、腰を抜かしたようだった。
「ノアはいたよな」
俺の問いに、斑柄は相変わらず返事をしない。
「……身体に聞くしかないか」
怒りで歯をむき出しながら俺が斑柄に手を伸ばそうとした時。
「い、いました!」
「おいっ!」
茶トラの女が、斑柄を庇うように前に飛び出して来た。その女を押さえるように肩をつかむ斑柄。
「あの子はもういません」
「いつここを出たのだ」
「今朝です。道沿いを歩いて一番近い村を目指すようでした」
必死になって言う茶トラの様子を見て、彼女は嘘はついていないように思った。
「……ノアのことだ、それほど早くは歩けまい。俺たちの足なら、今日中に追いつける」
エミールの言葉に頷くと、俺たちはすぐに家を飛び出した。
ともだちにシェアしよう!