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第46話 足跡を辿れ(17)
外観が古い建物の割に、僕が泊まらせてもらった部屋は、予想よりもそれほど古めかしくはなかった。宿泊客は、僕以外にはいなくて、だからあっさりと泊まることができたのだと知る。宿のご主人は柴犬夫婦で、僕一人だと食事も寂しいので、とお願いして、二人と一緒に食事をしてもらった。
柴犬のご主人は、なかなかおしゃべり好きで、この村での日常の面白い話をいくつもしてくれた。話をしたおかげで、ここから獣人の国の首都までは、まだまだだいぶあるということと、そのための移動手段の電車は、隣町まで行かないと乗れないことがわかった。
そして、その隣町に行くにはバスで移動しないといけないことも。
しかし、かと言って、ポップンを電車やバスに乗せられるのか、不安になった。ポップンには首輪がついているわけでもないし、リードがあるわけでもない。
この町にはスーパーと言えるものはなくて、小さな何でも屋さん的な個人商店ならあるらしかった。だけど、小さな村だけにその店は日が沈むと一緒に閉店するような店で、二人に話を聞いた時点で、すでに店は閉まってる時間だった。その店にリードや首輪があるかどうかもわからない。だったら、せめてあの小箱に戻すことってできないのだろうか、と思った。
食事を終えて部屋に戻ると、リュックの中のポップンが入っていた小箱を探した。
リュックの奥底のほうにあった小箱を取り出すと、閉じてた蓋を再び開けてみたけれど、特に何が起きるでもない。一瞬考えて、携帯電話を取り出すと、電源を入れてみた。僕を一人で置いて行ったフルブライトに連絡して、色々聞いてみようと思ったからだ。
すると、見知らぬアドレスからメールが一通届いていた。それを開いてみると、タイミングよく、あのフルブライトからだった。
『いくつか伝え忘れていたことがあったのでメールする。
一.魔法の地図は、君の位置を我々が把握するためのものでもあるので、失くさないこと。
二.携帯電話は、必要最低限でしか使わないこと。
三.リュックには、いくらでも荷物は詰め込める。ただし探すのに手間がかかるので、あまりたくさん入れるのはお勧めしない。
四.大きい財布の中に獣人の国のお金が入ってるので、それを使うこと。君の財布の小銭は使えないので。
五.魔法犬にはエサは必要ない。必要がない時は、入っていた小箱に戻せばいい。蓋を開けて『ハウス』と言えば箱に入る。
以上』
……こんなこと、僕を置いていく前に教えておいて欲しかった。
僕は試しに、蓋を開けた状態で、ポップンに向かって『ハウス』と言った。それと同時に、ぽふんっ、煙が発生したと同時に小箱の中に入っていき、自動で蓋が閉まった。
「すげぇ……」
僕は呆然としながら小箱をのぞいた。そこには子犬の状態で、眠っているポップンがいる。再び蓋を開けると、また、ぽふんっ、と煙が出て来て……大きなポップンが「ハァ、ハァ」と息をしながら僕を見上げるように座ってた。
「うわぁっ!これなら、お前のこと気にせずに交通機関使えるな」
嬉しくて、思わず抱きしめた。そしてベッドに潜り込み上掛けを開けると、僕の隣にポップンも入り込んできた。ポップンのお蔭で、すぐにベッドの中が温かくなる。そのおかげもあって、疲れ果ててた僕はすぐに夢の中に入りこんだ。
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