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第47話 足跡を辿れ(18)
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村の夜は早い。
日が落ち、夕飯が済めば、ほどなく家々の灯りは消えていく。そんな村の中を、黒豹のホードン・マフは闇のなかを静かに歩いていく。ノアの存在は、彼が村に着く前から確認をしていたが、犬を伴っていたこともあり、近寄れなかった。立派な体格のホードン・マフだが、どうにも大型の犬は苦手で、その上、あの犬にはなにやら魔法の臭いがする。
接触することを迷っているうちに、国境近くの最初の村に辿りついてしまった。ノア・アシュレーは、早々に村の宿を見つけて泊まることにしたらしく、宿の中に入っていく。ホードン・マフは、彼を連れ出すためには、もう少し人気がなくなるまで待とうと、気配を消して宿の近くの民家の影に潜んだ。
村人が寝静まった頃、ホードン・マフは動き出した。
魔法で宿のドアを音もなく開けると、静にノアの持っていた斑柄のジャケットの匂いを辿る。ノアの部屋はすぐにわかった。二階の一番奥。裏通りに面したほうの部屋だった。
静かにドアを開けると、ベッドに横たわるノアの姿と……あの大きな犬がベッドの中からノアを護るように顔を出し、ホードン・マフを睨んだ。
『グルルルルル……』
犬の唸り声に、一瞬戸惑ったものの、すぐに襲ってくる様子がない。であれば、魔法で黙らせてしまえばいい。そう思って、腰に差していた魔法の杖を出し、犬にめがけて催眠の魔法をかけようとした時。
「お前、何をしている」
「っ!?」
ぶわっと、いきなり、狼の匂いが空間を充満した。それとともに、恐ろしいほどの殺気で、背後を振り向くことができなくなる。ノア・アシュレーのことに集中しすぎて、自分の背後に気づかなかったとは。思わず、歯ぎしりをするホードン・マフ。
「杖を下せ」
殺意を込めた冷ややかな声に、中途半端に上がっていた杖をゆっくりと下した。
「よし、こっちを向け」
背後にいるのが、一人なのは、そいつの声と存在感で、 わかっている。とにかく、まずは、ここから逃げることが肝心だ。下手に捕まえられて自分の身元がばれてしまうことのほうが、あの方にご迷惑をかけることになる。
「おい、早くしろ」
その声と同時に、ホードン・マフは、ノアのベッド越しにある窓ガラスめがけ走り出し、窓ガラスをつきやぶって外に転がり出た。身を起こそうとした瞬間。
「はい、いらっしゃーい」
「っ!?」
目の前に二人の狼がホードン・マフの前に立ちふさがり、そのうちの一人、栗色のほうが、指先をホードン・マフの額に突き刺し、ニタリと笑った。
その瞬間、ホードン・マフは気を失ってしまった。
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