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第54話 知らされた過去(5)

***  皆が完全に寝入った頃。黒豹が一人寝転がされている食堂。  黒豹……ホードン・マフは魔法によって動きを抑え込まれているものの、意識だけはしっかりしていた。  彼らの会話も、聞こえていた。  そして彼らが王家の者たちであるのは、すぐにわかった。  ――マズイ奴らに捕まった。  そのことばかりが頭の中を渦巻いていた。特に、あの栗毛の狼は、王家に仕える魔法使いだとわかった時点で、このままではすまない、ということに気が付いた。  彼ならば、どんな方法を使ってでも、自分が何者であるのか、をしゃべらせることは簡単だということも。ホードン・マフは、ハザール家の従者の中でも武闘派で、魔法の能力も耐性はあまり強くはなかった。だから、栗毛の狼にかけられた魔法に対しても、反撃する暇もなかった。  ――なんとか、この呪縛から逃れられないものか。  ギリギリと歯を食いしばりたいのに、それすらも出来ずに、心の中でギリギリと何かが軋んでいる。どうにかできないものか、と、瞳だけがギョロギョロと動き回る。  その時。  ジワリジワリと黒っぽい煙が床からにじみ出るように浮かび上がって来た。その煙が徐々に形づくられていく。そこに現れたのは、灰色のローブを着た黒豹が現れた。 「……みっともないな、兄者……」  冷ややかな瞳で見下ろすローブをまとった黒豹は、横たわっているホードン・マフよりも一回り小柄だった。しゃがみこんで、ホードン・マフの顔を覗き込む。彼の周囲に張り巡らされている呪縛の魔法の痕跡に、一瞬、顔を歪める。 「ふーん……この魔法、あいつか……」  横たわる黒豹の瞳はまるで、見下ろしてくるローブの黒豹を焼き殺そうとでもするような視線をぶつけてくる。 「わかってるよ。すぐに解放してやる。でも、ここじゃ、まずい」  スッと立ち上がり天井を見上げ、鼻をひくつかせると、ジッと、ある方向を睨むように見つめた。軽く鼻を鳴らすと、再び足元の黒豹を見る。そして、小さく呪文を唱え始めると、周囲に白っぽい煙がたちこめだした。その煙が徐々に部屋の中を充満し真っ白な世界になったと同時に、二人は完全にその中に溶け込み、消えていった。

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